6月22日に公示され、18日間に渡る選挙戦が始まった参議院選挙。党首たちが政策をアピールするなど、すでに熱い論戦が繰り広げられている。
こうした中、考えたいのが「民主主義」。選挙に行き、民意を反映させる。私たちが当たり前のように受け入れてきた民主主義だが、ここ数年、この民主主義を巡り多くの問題が浮き彫りになっている。
2021年の衆議院選挙では、20代は36%、30代は47%と若い世代の投票率の低さが目立った。ある調査では、国民の約6割が「政党や国会を信頼できない」と回答したという。
果たして、民主主義は既に”オワコン”なのか。それとも、今の時代にマッチした民主主義にアップデートすることは可能なのか。
ニュース番組「ABEMAヒルズ」では、公共政策に詳しい東京工業大学准教授の社会学者・西田亮介氏と、『22世紀の民主主義 』(SB新書 7月発売予定)の著者でイェール大学助教授・成田悠輔氏が「日本の民主主義」について議論を行った。(聞き手:徳永有美キャスター)
■民主主義は限界なのか?
成田:昔から有名な言葉で、イギリスのチャーチル元首相が言った「民主主義というのは酷い。だけれども、それ以外にあり得る他の仕組みと比べればマシなんじゃないか」というのがありますが、それが今でも正しいのかと考え直してみたいと思うんですよね。
分析でいくつかの客観的に観察できるような政策の成果指標やGDPなどで、民主主義的な政治制度をとっている国とそうでない国の成果、パフォーマンスを比べることができます。それを比較してみると、2000年くらいからこの二十数年間、民主的な国ほど平均的な経済成長率みたいなものがすごい落ち込んでいる。つまり、民主国は成長できていないといった傾向がはっきりあるんですよね。そう考えると、いくつかの指標に関しては相対的に民主主義がマシという議論さえ、もしかしたら成り立たなくなっているのかもしれないなと。それ以外を見ても、民主国というのが全体にすごい過激なポピュリスト政治家みたいなものをガンガン作り出すようになって、トランプ前大統領のようなのが代表ですよね。民主主義は限界なんじゃないか、終わりなんじゃないかというのがよく語られるようになった印象があるんですよね。それについて西田さんはどう思われていますか。
西田:期間のとり方や指標の合成の仕方などはもう少し詳しくお伺いしないとわからないのですが、概ねそういう指摘もできるという気はしました。
徳永:西田さんは限界かどうかという点に関してはどうお考えですか。
西田:課題は数多あるんだと思います。ただし、限界といったときには、「もうこのやり方はだめだ」と宣言してしまうことになりますが、果たしてそこまで言えるかなという気がします。“民主主義の呪い”があるといったときに、やや技術的ですが、ここで話してみたいのは時間と政策ですね。時間とはパフォーマンスを計測するときに、スケールの取り方(期間の測り方)にかなり影響を及ぼすのではないかという気はしていて、例えば経済成長があるピンポイントを超えると急速に鈍化するようなあり方を考えるのであれば、一般的には非民主主義国の方が、パフォーマンスが悪い状態からスタートしているので近年に近いスケールでとるとグッと伸びるというふうに映ることがあるのではないかと疑問に思ったのが一点。それから民主主義を全体的に「だめよ。限界だ」と言ってしまうのか。もうひとつぐっと具体的な話をすれば、部分的に改善を施していき、差し当たりなんとかやりくりして、回していけるのではないかということです。
■民主主義はどのようにアップデートすべきなのか?
徳永:成田さんは民主主義の制度を「調整・改良していく」方法として「液体民主主義(Liquid Democracy)」と「二次投票(Quadratic Voting)」の2つを挙げられていますが、説明お願いします。
成田:これは色々な人たちがこれまで提案や議論してきたもので、民主主義を選挙みたいな仕組みを使って実現するという普通の考え方をある程度前提としようと。だけど、選挙のデザインの仕方が今使われている以外のものにアップデートしたり、改良したりすることができるのではないかという考え方です。その具体的な例として「液体民主主義」というのがあります。液体民主主義とはざっくりいうと、票を他の人に託せる民主主義というイメージなんですよね。それによって、今よく行われている誰かに代表してもらって「間接民主主義」みたいなものをやりましょうという話と、みんなが直接投票する「直接民主主義」の中間みたいなものを実現しようといったアプローチなんですよね。
徳永:「二次投票」は台湾でオードリー・タン氏が実現されているんですよね。
成田:政治家とか政党みたいな単位に全てのイシューを一括して預けるのはやめようと。その代わりにそれぞれの個別の政策論っていうのがイシューに投票できるようにする。しかも、1人1票というよりは例えば100票とか持っていて、自分にとって重要な論点に多くの票を割り当てることができるといった選挙の再デザインと再発明のアイデアという感じなんですね。
西田:若干付け加えるとすると、液体民主主義にしても二次投票にしても、あるいは余命投票などもそうですが、合理的すぎるがゆえに選択されないツールだと思うんですよね。民主主義とか民主制の決定というは、ある意味しょうがないからやっている、それから経路依存的に昔からやっているからそれを使い続けているという側面も強いと理解しています。そういったときに成田さんがいくつか提案したり、取り上げたりしたモデルというのは、これまでの意思決定の方法よりも合理的にいろいろなものを決めることができる、大変パフォーマンスの高い手法です。しかし、そうであるからこそ現在の政治のシステムからこちらに移行していこうというインセンティブが、特に職業政治家のシステムの中にいる人たちにほとんど働かないと思うんですよね。でも選挙の区割りや制度改革を見てもそうですが、現状変更には物凄い抵抗があって、遅々としてしか進みません。他方で、あり得る実装可能性ということでいえば、例えば地方行政におけるマッチングとか、選挙権を持たない外国人住民の民意を条例や政策に取り込む方法などがありえるのではないでしょうか。国政と比べれば地域単位でかなりの程度、裁量が認められていますので、そういうところから部分的に導入していくのはあり得るのではないかと思いました。
徳永:成田さんは改良・調整をして、民主主義というのをより良くできる、完成するというふうには思われていますか?
成田:あんまり思わないという部分があるんですよね。というのも、民主主義の危機と叫ばれている一つの大きな原因は、選挙をやることそのものがいろんな問題を生み出しているという問題なんじゃないかなと思いますね。典型的なのがメディアと選挙の化学反応みたいなもので、これだけみんながなんでも発信できるようになっている。こうなると選挙という特定のイベントをある日にやって、みんなが集まるタイミングに合わせた形でいろんなハックが可能になっちゃうわけなんですよね。この選挙一般の問題はいくら選挙の細部をデザインし直したとしても根本的には解決できないと思います。
■民主主義を大改造していく!?
徳永:成田さんは現在の民主主義の骨格を変えるともいえる「無意識データ民主主義」と挙げていますが、説明お願いします。
成田:ざっくりいうと選挙みたいなのをあまりやらない。あるいはそれに依存しすぎない民主主義の形というのもあり得るんじゃないかなと。今の社会は、ありとあらゆるところでみんな民意を表明しすぎですよね。いろんな情報が世の中に溢れ出している。その情報全部を直接使って、選挙以外のところから染み出してくるような民意に関するデータとかをうまく集約する。それによって、それぞれの政策論点やイシューについて、人が何を大事だと思っていて、その大事だと思っているものを実現させるためにどんな政権がいいのか、ということをもう少し機械的に「AI政治」ぽく考えることもできるじゃないかなと思います。
徳永:西田さん、今のお聞きになってどう思いますか。
西田:奇抜に聞こえる人もいるかもしれませんが、案外オーソドックスな考え方なんですよね。考え方としては、情報学分野の古典的なマルチエージェントの考え方に近いでしょう。要するに自分が活動していない間もエージェントが代理して情報収集したり、他のエージェントとやり取りするようなモデルが念頭にあるのではないかと想像しました。それから人が十分に自覚していない、認識していない民意に注目していくというのも、最近の憲法学の分野でも似た議論がありました。バイアスに覆われがちな表層的な「民意」ではなく、その背後にある本当の民意に目を向けるべきという趣旨の議論です。センサーなどを使って括弧つきの無意識も含めた本当の民意を探りながら反映していという議論も、意外と思考実験としてはあり得て、実際色々な分野でなされているものではあります。
成田:今の話に絡めていうと、民意みたいなものって本当に無色透明の真の民意があるのかはわからない。どういう角度からそれを見るのかによって表情が変わる万華鏡のような側面があると思うんですよ。選挙というのはその民意にアプローチする抽出するための一つの方法だと思うんです。ただ、それ以外の方法も無数にあると。それぞれのチャンネルと民意の取り方はそれぞれなりのバイアスを持っていると思うんです。なのでこのいろんなチャンネルと組み合わせることで、そのバイアスをどうにか打ち消し合えないかなと。それによって選挙みたいなものが特定のソーシャルメディアみたいなものによって、ハックされたり犯されてしまうという、今抱えている問題を少し緩和できる可能性があるんじゃないかなと考えています。
徳永:選挙に行くためにバイアスを取り払うというのが大事なんですね。
西田:二つ付け加えると、現実の民主主義は必ずしも合理的な選択の問題ではほとんどなくなっている。やっぱり、価値観の問題だと言わざるを得ないじゃないかというところがあると。短期的にこの仕組みでいいのかどうかというのはあまり関係なくて、みんなで決めたから間違っていても差し当たりあの時点においては、正しかったという選択をしていくという意味においてです。そのやり方で連綿と紡がれていきた仕組みだと思うんですよね。「これが最適なパフォーマンスだ」というよりかは、「こうやってきたし、さしあたりなんとか回っているので、これからもだいたいはこんな感じでやっていく」ということです。でも、そのダメさ加減も実に人間的です。しかも民主主義の具体的な形は選挙制度をみるとわかりやすいですが、国や社会によってバリエーション色々あるという程度のことだという意味においては、成田先生がおっしゃるような「これが限界だから変えよう」と、ぼくのように「こんな感じでしょうがないよね」というかの差ではないでしょうか。
徳永:例えば、試行錯誤しながらビッグデータを使ってAI政治みたいな政治家がいなくなるという世の中になった場合、安定した世の中になるのでしょうか?
成田:いや、問題も生まれながら進んでいくと思うんですよね。それは政治だけではなくて、人間生活のあらゆるところで同じことが起きると思うんですよ。例えば、自動運転でいうと、実際小さい事故を起こしたりしながら改良されていくと思うんですよ。ある時点を超えると、人間も間違いを犯すし、AIも機械も間違いを犯す。どっちの方が間違いが少ないかといったらAIの方だよねとなって、世の中は徐々に変化していくんだと思うんですよね。それと同じことが多分、ほとんどの政治家にも起きるんじゃないかと思います。
徳永:これまで民主主義のこれからについて話してきたんですけども、7月10日の選挙を迎えるにあたってどんなふうに考えていけばいいですか。
西田:つまらないですが、普段と違った投票行動をしてみるといいのではないでしょうか。それが積み重なるなら、政治に緊張感を与えることがあります。
成田:民主主義にそれほど選挙は必要ないと思っているので、どれくらい選挙に行かない人が増えるのかに注目しながら見つめていきたいですね。
(『ABEMAヒルズ』より)
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