「セクハラを相談して、周りにも同様の被害を受けていた人もいたので、その方のことも相談したのですが、私の相談よりも『ほかの女性社員の方が問題だよね』と言われて、生来の女性と私では重みが違うというようなことを言われて、悔しい思いをしました」
こう訴えたのは、イラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営する、ピクシブ社の30代トランスジェンダーの社員。出生時は男性として割り当てられたが、現在は女性として生活をしている。
女性は、男性上司から度重なるセクハラやパワハラ行為を受けたとして、上司と会社を相手取り慰謝料など約550万円の支払いを求め、東京地裁に提訴していて、ピクシブ社は現在、謝罪を申し入れている。
この女性が受けた性的指向や性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」――。いったいどういうものなのか、自身もトランスジェンダーで、今回の訴訟を担当する仲岡しゅん弁護士に話を聞いた。
「SOGIハラもセクシャルハラスメントの一種ではあります。ただ、それまで想定されてきたセクシャルハラスメントというのは、例えば触るとか、あるいはその性的な発言とか。ただこの性的な発言の中でも、性自認自体や性的指向自体に関するハラスメントというのは、あまり想定されてこなかったんです。近年、LGBTの人たちが顕在化してきたことによって、そういったものもハラスメントだろうということが理解されてきました」
パワーハラスメントの防止対策をとるよう企業に義務付ける「パワハラ防止法」のなかにも、「SOGIハラ」は含まれているが課題もあるという。
「セクシャルハラスメント研修の中で、いわゆるLGBTとか性同一性障害の人があまり想定されていなかったりする場合もあります。中には男性から男性に対するものや、女性から女性に対するもの。あるいはその女性から男性に対するものなどがあります。そこの中で同性愛であることに対するハラスメントとか、そういったことがあんまり想定されていなかったのです」
SOGIハラの具体的な例として、人の性的指向や性自認を勝手にばらす「アウティング」がある。
実際に2015年、一橋大学の男子学生(当時25)が同性愛者であることを同級生に伝えたところ、この同級生がLINEを通じて複数の友人にそのことを暴露。男子学生は差別を受ける不安などから自殺した。
「『同性愛というのは異常なんだ』とか、そういう価値観の方も一定数いる訳ですよね。そういう中でLGBTの人というのは、息をひそめるように暮らしているという現実もあるわけです。そういう中で『あの人はLGBTなんだ』とアウティングされたりしてしまうと、仲間外れになって孤立してしまう問題はありますよね。ですから決してその軽い問題じゃなくて、その人にとっては重大な問題であるということを理解したほうがいいと思います」
SOGIハラを防ぐために大切なのは、「自分には関係ないと思わないこと」だと仲岡弁護士は話す。
「人口の4、5%がLGBTと言われているんですが、そういう人が当たり前にいることを理解するべきですよね。SOGIハラというのは決してLGBTだけの問題ではありません。LGBTじゃない人にとっても、性的指向や性自認はあるわけです。トランスジェンダーじゃない人であっても、『女だからもっと女らしい格好しろ』とか、広い意味ではSOGIハラに含まれるものです。ですから、決して一部の人たちだけの問題じゃなくて万人の問題なんだとそう理解をして欲しいと思います」
ピクシブ社の騒動を受けて、ニュース番組『ABEMAヒルズ』のコメンテーターで、トランスジェンダーを公表しているサリー楓氏は、「現場のセーフティーネットが働いていなかったのが大きな問題」と指摘。
また、SOGIハラに対する社会の理解については、「SOGIハラという言葉自体はあまり普及していないですね。LGBTの方がかなり普及していて、企業も何かしらの対応を取らないといけない意識は広がってきているのですが、具体的に何をしたらいいのかとか、どういう職場環境にしていけばいいのかとアクションに踏み出してる企業はまだまだ限られています」と述べた。(『ABEMAヒルズ』より)
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