海外の研究グループが発表した、2050年の世界の認知症患者の人数は1億5000万人。30年で約3倍に増加するという計算だ(2019年:約5700万)。
認知症の早期発見、そして早期の治療が世界的課題となる中、日本であるツールが開発され注目を集めている。
「認知機能を測れるようなタスクがありますので、それをタブレット上で書いていきます」
こう話すのは、筑波大学の新井哲明教授。6月2日、新井教授らの研究グループは、認知症の早期発見のため重要となる、認知機能の低下を図るための新たなツールを開発したと発表。(筑波大学・IBM Research・静岡大学の共同研究)。そのポイントは「お絵かき」。
今回開発されたツールはタブレット端末に画を書くことで、その速度や静止時間、さらに筆圧やペンの傾きといったデータをAIが自動で分析。認知機能低下の程度を推定する仕組みになっていて、その後の検査へつなげるのが狙いだという。開発のきっかけについて新井教授は次のように述べた。
「(認知症の)厳密な診断をするためには、蓄積してくるタンパク質を画像で捉えるPETというのがあるんです。これはものすごく高く、一人20、30万円くらいかかります。初期の段階の人をいかに低コストで体に対する侵襲(負担)がなく、スクリーニングする方法を開発することが、治療薬の開発という意味でも大切ですし、早期診断という研究の大きなテーマをもってやってきました」
これまで、認知機能の低下を調べるためには、「質問票」などを使った検査が行われてきた。こうしたツールはさまざまな言語に翻訳され、世界各地で利用されるが、言語によってはカバーしきれない場合もあり、利用できる人が限られてしまうという課題があった。
しかし、今回開発されたツールは言語を使わないため、国や地域に関わらず、誰もが利用することができるという。
「非常に簡便で本人に負担のない、コストのかからない、そういうメリットがあると考えられます。言語を介さないので、タブレットに書いてもらうということでいえば、どこでやっても同じ評価になりますので、そういう意味でも国際的な研究などにも役立つ。そういうメリットはあると思います」
そして新井教授が期待を寄せるのが世界の”医療格差”の解消。現在、認知症の診断率が低いと言われている低所得・中所得国では、認知症の症状がある人の90%以上が認知症と診断されず、適切な治療を受けられていないと言われている。新井教授は、ゆくゆくはこのツールを世界に広め、認知症の早期発見に役立ててほしいと話す。
「認知症と診断されるためには病院に来なきゃいけないわけですけど、病院にいらっしゃらないので、認知症になっても診断されない、あるいはすごく進んだ段階にならないと診断されない、途上国もそういう状況は強いわけなんですよね。そういう認知症が増えている国というのは、そういった医療へのアクセスが必要であるという、そこ自体が診断のハードルになっているということがありますので、こういう日常の生活の中で認知機能低下を検出できるツールができると、そこのアクセスが非常に容易になると思いますね。かなり世界的に役に立つのではないかかと思います」
受ける側が負担をかけずに、手軽に認知症のテストができるこのツール。遺伝子検査でも認知症になる可能性を判断することはできるのか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』にコメンテーターとして出演している、遺伝子解析のベンチャービジネスを展開する株式会社ジーンクエスト代表取締役・高橋祥子氏に聞いた。
「今、認知症になっているのかはわからないが、認知症になりやすいタイプ、リスクがあるかなどは遺伝子である程度わかる。ただ、リスクが高いとわかっても今は予防できるものがないので、こういったツールで早期発見して、薬で進行を遅らせることができるといいかなと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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