女性で初めてプロ棋士編入試験に挑む里見香奈女流四冠(女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花、30)へ、2021年に行われた「第2回女流ABEMAトーナメント」でチーム里見の監督を務めた中村太地七段(34)がエールを送った。

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 里見女流四冠の選んだ夢の道。中村七段は「大きな決断。まずは決断されたということに敬意を持ちたいなと思いました」と柔らかくほほえんだ。里見女流四冠とは過去に何度か練習将棋を指したほか、昨年行われた「第2回女流ABEMAトーナメント」でチーム里見の監督として、清水市代女流七段(53)、里見女流四冠の妹・川又咲紀女流初段(26)の3人とともに戦ったチームメイトでもある。

 「里見さんは、常に将棋に真摯な姿勢で取り組んでいますよね。将棋が大好きで、常に自分の実力向上を考えられている。一局一局創意工夫されていて、それが伝わってくる将棋を指されますね。とてつもない時間を将棋の研究に充てているということは誰もが知るところ。“鉄人”という印象もあります」

 ただ、強くなるために。膨大な時間を将棋に捧げて、築き上げた「里見香奈」という唯一無二の存在感。ひたすら走り続け自らの手でつかみ取った受験資格は、中村七段にとっても驚きではなく「普通のことだなと見ていました」という。

 「里見将棋の魅力は、終盤の切れ味はもちろんですが、最近だと自分独自の戦法や指し方を確立していますよね。個性が出しづらい現代将棋において、里見さんにしか指せない将棋を指しているというのがとてもすごいことだなと思います。男性棋戦に出て活躍もされていますが、もう普通に指して普通に勝っていますよね。苦しい将棋も力で逆転されますので、純粋にすごいなと見ています」

 東京、関西とそれぞれ所属が異なるため、顔を合わせる機会は少ないものの、女流ABEMAトーナメントで交流した際には“鉄人”のイメージに変化も感じたという。

 「盤を離れた里見さんは、すごく純粋という印象です。最近は盤外のこともいろんなことに興味を持たれているんですよね。スイッチを切り替えて楽しんでいるんだなというのも感じます。かなりの時間を将棋に費やしてきたと思うのですが、ここ何年かで変わったような気がします。妹さん(川又女流初段)と出かけた様子をTwitterに上げたりすることもそうですが、多方面にアンテナを張って、将棋はもちろんいろいろなものに興味を持って楽しもうとしているんだなと感じました」

 8月から始まる編入試験の五番勝負。注目度は現役トップ棋士をもってしても「めちゃくちゃすごいことになるでしょうね」と全容は描けないようだ。

 「将棋界の長い歴史の中で、女性の棋士の誕生は“夢物語”だった時代もあるんですよね。里見さん、西山さん(朋佳白玲・女王)が奨励会三段時代に、夢の実現にあと一歩、というのが続いていていました。里見さんは輝かしい実績をたくさん残されていますが、ご本人的には順風満帆に来た訳ではなく、苦労をしたこともたくさんあったと思います。女性初の奨励会初段からプロ一歩手前の三段へ、と道を切り開いてきた里見さんが棋士編入試験に挑戦することになったというのが、現実の物語としてつながっていたんだなと感じます」

 里見女流四冠が編入試験で挑むは、5人の若手棋士。新四段5名が棋士番号順に選出され、第1局に徳田拳士四段(24)、第2局に岡部怜央四段(23)、第3局に狩山幹生四段(20)、第4局に横山友紀四段(22)、第5局に高田明浩四段(20)が予定されている。中村七段は、試験官を務める若手棋士たちにも「のびのび指して」と心を配った。

 「新四段ですので、大舞台にまだ慣れていないという部分での大変さはあると思います。でも里見さんはすでに公式戦で活躍されている方なので、アマチュアの方が受ける場合の『アマチュアの方に負けるわけにはいかない』というのとはちょっと違うのかなと思います。里見さんは『受からなければならない』など、どういう思いを抱えて指すのかはわかりませんが、お互いにのびのび指せるといいなと思っています」

 大注目が集まる編入試験は、8月から1カ月に1対局のペースで予定されている。持ち時間は各3時間で、先手・後手は1局目での振り駒で決める。3勝するとフリークラスへの編入資格を得て、史上初の「女性の棋士」が誕生する。中村七段は「自分自身としてもすごく楽しみ」としながらも、「彼女自身が連盟から発表したコメントの『静かに見守ってほしい』という一言に、すごく思いが詰まっていると思いました。里見さんの実力が存分に発揮できる環境で、のびのびと指してほしいなと思っています」と優しく言葉を添えていた。

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