将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の本戦トーナメント2回戦第4試合、チーム渡辺とチーム天彦の対戦が9月3日に生放送された。渡辺明名人(棋王、38)率いるチーム渡辺は、初出場メンバーの渡辺和史五段(27)の3連勝の大活躍もあり、5勝3敗でベスト4進出が決定。リーダーの渡辺名人は「覚醒しましたね」とその躍進ぶりを称賛していた。
渡辺五段は2019年10月に四段プロデビュー。2021年度は順位戦C級1組昇級に加えて歴代7位となる20連勝を記録し、将棋大賞「連勝賞」を受賞した。ABEMAトーナメントは今大会が初出場。リーダーの渡辺名人からドラフト2位指名を受け、チーム入りとなった。選出理由は「練習将棋を指した時の出来が良かったから」。チャンスはどこに転がっているかわからない。渡辺名人は、いつ何時も高いパフォーマンスを発揮できる素質を見抜いていた。
予選トーナメントは、藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、20)率いるチーム藤井と、過酷なエントリートーナメント勝ち抜き者で結成された選抜チームと対戦。チーム藤井との第1試合では、初戦の藤井猛九段(51)戦で敗れたものの、森内俊之九段(51)から白星を挙げて1勝1敗、エントリーチームとの第2試合では2勝1敗と勝ち越し、予選首位突破に貢献した。初出場とは思えぬ落ち着きぶりで「課題が残るところもあるが、本戦でも力を出し切れるように調整していきたい」と語っていた。
対局中の冷静沈着な姿から一変、ABEMAトーナメント名物とも言えるチーム動画では弾ける笑顔も披露。川下りのラフティングに挑戦した際には、高さ7メートルの大岩から川に飛び込む度胸も見せた。チームメイトの近藤誠也七段(26)が「言葉は少な目で穏やかな人」と語った通り、柔らかく温かい人柄の奥にある芯の強さを軸に、渡辺五段の周りにはいつも人が集う。
本戦トーナメントは生放送での対局となるため、独特の空気感に飲まれ思うような力が発揮出来ない棋士も少なくない。渡辺五段はチームスコア1-1で迎えた第3局を任されると、堂々たる指し回しでチーム天彦の梶浦宏孝七段(27)を破り、チームに勢いを付ける勝利を持ち帰った。3-1までリードを広げ、準決勝進出に王手をかけたい第5局では渡辺名人が黒星。いよいよチーム勝利を決めるべく第7局の勝負所では、エース近藤七段が敗れた。まだ星はリードしているものの、流れは完全にチーム天彦に。第8局は、ここまでに2勝を挙げている渡辺五段が担うことになった。
この日3度目の対戦となる梶浦七段を相手に、前局と同じ相掛かりを志向。控室の渡辺名人は「和史に負担掛けちゃったな」と不安げな表情を見せていた。そんな心配を跳ねのけるように、渡辺五段はチームで研究していたという△7八角からペースを握った。終盤は二転三転の大熱戦となったが、最後まで冷静さが光り、チームに大きな勝利を持ち帰った。渡辺名人は「和史君、覚醒しましたね」、近藤七段は「和史君の活躍につきますね。今日は勝ちたいという気持ちが伝わってきて、(最終局も)勝ち切ってくれてスカッとしました」と感謝。この日のMVPとなった渡辺五段は「課題や反省するところもあるが、今日は余韻に浸りたい」と笑顔を輝かせた。チーム渡辺は第3回大会で準優勝、第4回大会は本戦2回戦敗退とあり、今大会では優勝が命題。チームの勝ち頭となった渡辺五段は、次戦に向けて「粘り強く、腰を重く頑張りたい」とますますの活躍を誓った。
ABEMAトーナメントは、以前はなかなか中継されることのなかった新人棋士の対局の様子や素顔を見られるため、若手棋士の“ショーケース”的な役割も担ってきた。現在飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の伊藤匠五段(19)、服部慎一郎四段(23)らも第4回大会をきっかけにブレイクを果たし、今では屈指の人気棋士となった。この日の渡辺五段の絶好調ぶりは、もちろんファンも大歓迎の様子。「和史先生がんばったー」「ヒーローだー!」「エース交代?」「20連勝の実力」「かずしかない」「めっちゃ応援する」「優勝までお願いします」と多数のコメントが寄せられていた。ネクストブレイク必至、渡辺五段の今後の活躍からますます目が離せない。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)





