目薬に育毛剤…スポーツのドーピング問題はうっかりでも許されない?アスリート自身が"身の潔白"を証明する難しさも
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 11月17日に発表されるメジャーリーグのMVP。エンゼルスの大谷翔平と並び有力候補とされるのが、シーズン62本塁打とア・リーグ新記録を打ち立てたヤンキースのアーロン・ジャッジだ。地元記者からは、単純なホームランの数だけでなく「“クリーン”な体での記録だから」といった声も上がっている。

【動画】アスリートの責任はどこまで…うっかりでも許されない?

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 両リーグを通じた本塁打記録は、バリー・ボンズを筆頭に、マーク・マグワイア、サミー・ソーサが独占。しかし、いずれも筋肉増強作用のあるステロイドの使用や疑惑が取り出されており、ファンからは「薬で出した記録は偽物」「ジャッジの62本こそ真のMLB記録」といった主張もある。

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 輝かしい記録さえ、一瞬で消え失せてしまうドーピングについて、アスリートはどこまでその責任を持つべきなのだろうか。日本にも、過去に全く身に覚えのない違反から処分を受けた選手が。伊藤喜剛氏は、追い風の参考記録ながら陸上100メートルで9秒台を記録するなど、日本代表として活躍。1996年のアトランタ五輪の代表候補として合宿に参加中、そこで人生を変えてしまう出来事が起きた。

 抜き打ちのドーピング検査で筋肉増強剤の陽性反応が出て4年間の資格停止処分を受ける。故意では無いと訴えるも認められることはなかった。「もう26年前の話ですが、未だに真実というのが全然分からないまま。『あれは何だったんだろう?』という気持ちにしかならない」と率直な気持ちを語った。

 すぐに故意の摂取ではなかったことを主張するための活動を開始し、弁護団の結成や、自身の体にメスを入れて細胞を摂取して提出、状況証拠の収集、署名活動など、各所を奔走した。

 伊藤氏「逃げたい気持ちもあったが、全部ひとりで立ち向かうことに。容疑者みたいな扱いをされながら、被害者、警察、探偵のようなこともやって。自分ですべての資料を揃えて提出したが、認められなかった」

 処分は覆らず、人生最大の目標にしていたオリンピック出場の夢は閉ざされてしまうことに。最終的には国際陸連の罰則規定の変更により2年間の資格停止となり、1998年に復帰を果たした。現在、世界アンチ・ドーピング機構のルールでは、故意の摂取ではなかったと主張する場合、立証責任はアスリート側に課せられているが、その証明は簡単ではない。2017年には、カヌー競技でライバル選手に禁止薬物を投与し、規定違反によりその選手資格を失効させたという前代未聞の事案も発生した。

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 アスリートにとって、コンディションと同じように細心の注意を払うドーピング問題。過去には、使用していた目薬、育毛剤、長年服用していた薬の成分が、新たに禁止物質に指定されたケースなど、思ってもみないところから『うっかりドーピング違反』に発展した例もある。選手生命が途絶えてしまう可能性もあり、厳しすぎるのでは?という声もある。

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 日本アンチ・ドーピング規律パネルで委員長を務める弁護士の早川吉尚氏は「伊藤さんの事案が起きた1996年は、まだドーピングに対しての検査体制や審判の体制が整っていなかった時代。当時は、陸連が検察官であり裁判官だったので、選手と陸連が戦うような関係になってしまった。現在は、アンチ・ドーピング機構が検察官になり、私が委員長をしている日本アンチ・ドーピング規律パネルが裁判官役になる。選手が被告人になってしまったとすると、陸連は選手をバックアップする立場となる」

 さらに、「現在はスポーツファーマシストという特別な資格を持っている方が指導する体制も整っているので、様々な形で自分を防衛するということができる。また、裁判所に持ち込んだ場合は非常に時間がかかる。今はドーピング規律パネル、スポーツ仲裁裁判所というところで判断が可能。裁判官はジェネラリストだが専門的な知識はない。さらに法律上の争訟という壁があるため、当時であれば門前払いされる可能性もあったと思う。その時代、その時代の限界があるが、陸連の反応は当時においても過剰と考える。ドーピングに対する体制が整っていなかったが故の、伊藤さんは犠牲者だと思う」と加えた。

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 ドーピングの検査方法についても展開。就寝中に検査員が来訪するも、検査に必要な量の尿が採取できなかったため検査が長引き、ほとんど睡眠をとることができず練習に影響が出たという選手も。

 過去の経験から、伊藤氏は「世界ランク何位以内などの規定があり、選手たちは居場所の報告はしているのでいつ来ても仕方がない。選手としても認識していないといけないこと。僕はルール的にはありと思う。ただ、有名になればなるほどターゲットにされて夜中ばかり来るという声も聞いたことがあるので、それはかわいそうだなと思う」とコメント。検査における公平性についてはどのように保たれているのだろうか。

 早川氏「世界大会になると、開催国のアンチ・ドーピング機関が伺うことになる。国によっては、ライバル選手への嫌がらせのようなことが行われていたとしてもそれをコントロールすることはできない。ただ、現在はアンチ・ドーピング体制が確立されていることが大会開催のための条件となっており、そういったことが起こりえるような国は大会を開く資格がないということになっている」

 さらに早川氏は検査員側の心情にも言及。「好き好んで夜中に選手を叩き起こしたい人はいない。尿検査の場合は、他人のものとのすり替えなども実際にあり、瓶を壊したりなどの検査妨害もある。その選手は無期追放の処分になったが、4年間の追放処分だったとしても、トップアスリートにとっては死を意味する。厳しい処分というのも時には必要で、否めない」とした。

 選手生命が脅かされないほどの厳しい判断とあり、一部では厳しすぎるのではないかという声も聞かれる。アスリートの責任はどこまで及ぶのだろうか。

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 早川氏「過去にはドーピングが横行していた時代があった。そうなれば、薬が競争しているのか人間が競争しているのかわからなくなってしまう。薬には、人体を内側から改造してしまうほどの力を持つものもある。それによって選手生命どころか、生命そのものが脅かされてしまう。さらに、薬の供給元は闇の勢力やアンダーグラウンドである可能性も高い。手を染めてしまった場合、それをバラすという脅しが始まる。海外ではスポーツは賭けの対象になっているので、八百長に巻き込まれてしまったりした場合、スポーツという世界がめちゃくちゃになってしまう」

 伊藤氏は、ドーピング検査は選手生命が左右されかねない重大な検査とあり、“うっかりドーピング”を避けるためにも健康診断やPCR検査のように定期的に自分でチェックできる環境整備も提案。最後に「自分と同じような選手が出ないことを願いたい」と思いを込めていた。

(『ABEMA Prime』より)

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