「自分にマークがついている状況で、ひとつ内側の選手の背後は本当に空くし、一番マークがつきにくい。右、左のポジションに関係なく、今後も狙っていけば良いと思う。ディフェンダーがボールと選手を同時に見られない瞬間がサッカーにはあるので、そこはどんどん狙っていきたい」
【映像】日本、ジャイアントキリングを起こすか
柴崎岳(レガネス)の絶妙な縦パスに抜け出した相馬勇紀(名古屋グランパス)は飛び出した勢いのままに、浮き球のボールに触って少し方向を変えてカナダ代表GKボージャンを破った。もともと左右のサイドをこなせる相馬は、2019年のE-1選手権でも右サイドで起用されたが、名古屋グランパスでは3ー5ー2の左ウイングバックを担うなど、左側のアウトサイドでのプレーがほとんどだった。
「右利きの右サイドで(伊東)純也さんがずっと出てると思うんですけど、またちょっと僕はタイプが違う。そこは自分なりに得意なことを出せたらなと思います。左は1年間やってたってところもありますけど、任されたところをやるというのが自分のモットーなので」
今回、追加招集という形で同じE-1メンバーだったFWの町野修斗(湘南ベルマーレ)が加わったが、ほとんど欧州組が占めるアタッカー陣に、最後の最後で食い込んできた。相馬自身も”当落線上”からW杯のチャンスを得たことは十分に承知している。通常の23人から26人に登録メンバーが拡大されたからこそ、プラスアルファの力として選ばれた一人であることは確かだろう。しかし、選ばれた以上は日本代表で何ができるのか。本番直前のテストマッチでスタメン起用されたことは、森保監督の1つのメッセージとも言える。
スタートから起用された右サイドでは、外に開いてボールを持ったところからの仕掛けなど、ドリブル突破が少なかったことを反省しながら、ゴールシーンを含めた1つのオプションを示した。左で先発した久保建英が45分で下がり、堂安律(フライブルク)が投入されると本来の左に移動。これまで通り縦への仕掛けを繰り出して、惜しいクロスを上げた。
「初見の相手は必ず突破できると思っている」と9月の代表活動で語っていた相馬だが、結局はクロスやラストパスの質、味方との共有がゴールの鍵になってくる。慣れていない相手に対して、爆発的な瞬発力を生かした相馬のドリブル突破というのは間違いなく武器になる。そこから先の詰めのところは残された時間で上げていけば良い部分だ。
カナダ戦で示した相馬勇紀の戦術的な柔軟性
コンディション不良で合流が遅れていた三笘薫(ブライトン)がいれば、彼が左のジョーカー的な役割の一番手になるだろう。左は久保と三笘、右は伊東と堂安に次ぐ、つまり相馬は左右の両ポジションで3番手と言ってもいい位置付けだ。しかしながら、カナダ戦で確実に森保一監督の信頼を上げたはず。特に左サイドでは三笘の状態が上がり切らなければ、ドイツ戦では相馬が途中から日本に良い流れをもたらすキーマンになりうる。
そして右サイドも、ドイツ戦からコスタリカ、スペインと過密日程で続く中で、伊東と堂安にプラス相馬というオプションが加わったことで、森保監督の選択肢も増えたことは間違いない。さらに、カナダ戦の終盤には3ー4ー2ー1の左シャドーとして、左ウイングバックに入った長友佑都(FC東京)とのコンビネーションにもトライ。上田綺世(サークル・ブルッヘ)を頂点に、東京五輪の仲間でもあった堂安との2シャドーを形成した。
限られた時間で、大きな仕事をするまではいかなかったが、サイドとは違う相馬を出せそうな予感をさせるポジションで、もしかしたら3試合のどこかでそうした形が見られるかもしれない。そしてもう1つ、相馬が担った重要な役割がCKのキッカーだ。日本を優勝に導き、MVPにも輝いた今夏のE-1選手権で、アシストを記録したのは記憶に新しい。決定的なキッカーがいない中で、相馬が蹴るボールの質は大舞台でも武器になりうる。
カナダ戦では相馬がキッカーを担当したCKが2本あり、惜しくもゴールに結び付けることはできなかったが、相馬も「そこを合わせられるか精度とタイミングを上げていけたらなと思います」と前向きに語った。相手のカナダに見事なCKを決められたが、セットプレーでの得点は本番に取っておけば良い。
日本代表のシンデレラボーイとなるか
敗れてしまったカナダ戦の中で相馬の活躍は明るい要素の1つだが、彼の中では1つ感じたことがある。「得点を決めることができたんですけど、チームが勝てないとその先がないし、自分も全然嬉しくない」と振り返った相馬は「やっぱり勝つためのもう1点取ることもそうだし、クロス上げたところで決めさせる。もっともっと細部にこだわらないといけない」と語った。
やはりW杯というのは新しいヒーローを生み出す舞台でもある。大会前から注目を集める鎌田大地や久保建英のような選手が期待通りの活躍をすれば、日本代表が躍進する可能性は高まるが、相馬のようにギリギリ滑り込んできた選手が、世界を驚かせることは十分にあり得る。日本代表であるとともに、Jリーグ代表でもある相馬は「得点を取ってチームを勝利に導く。そして守備のところもハードワークして、戦うところはベースとしてやっていけたらなと思います」言葉に力を込めた。
現時点では国際的にほとんど知られていない166cmのアタッカーが、大きな舞台で日本を躍進へと導く活躍を見せれば「ユウキ・ソウマ」という名前が世界に広まるはずだ。
文・河治良幸
写真:JFA/アフロ