10月31日、慶應義塾大学・日吉キャンパス内の飲食店で、酒に酔った水泳部の部員がコップを割るなどの器物破損行為に及んだ。大学関係者が部員に身分証明書の提示を要求するも拒否。その後、部員は警察の事情聴取を受ける事態になった。これをきっかけに水泳部は無期限の活動停止を余儀なくされている。
これまでも一昨年、日本大学の学生が大麻所持容疑で逮捕された事件では、学生が所属するラグビー部の活動が一時停止になった。そのほか、今年9月には女性を酒に酔わせて性的暴行を加えた疑いで、同志社大学のアメフト部の部員4人が逮捕され、活動停止の連帯責任を負うことになった。
こうした流れにTwitterでは「他の生徒を巻き込む意味がわからない」「理不尽な思いをする部員は被害者だよ」「何でもかんでも連帯責任は時代遅れ」との声が寄せられている。果たして連帯責任は必要なのか不要なのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、専門家と共に考えた。
慶応大学によると、当該学生の年齢や同席部員の有無などは学生のプライバシーに関わるため公表されていない。名桜大学准教授でスポーツ哲学が専門の大峰光博氏は「情報があまり出てきていないので、判断は難しい」とした上で「私の立場は『条件付きの連帯責任はOK』だ。連帯責任のあり・なし、ゼロか100になる世間を変えていきたい」とコメント。
「今回の慶応大学の件も、上級生が下級生にお酒を飲ませて器物破損を容認しているような風土が部全体にあるのであれば、もちろん連帯責任を負わされる対象になると思う。一方で、1人もしくは2人の学生が、突然キャンパス内でお酒を飲んで、器物破損をしたケースならば、部の自粛は妥当ではない。普段、私も大学で部の監督をしているが、突発的に起こるものを止めるのはなかなか難しい」
11月1日から活動停止のため大会に出られていない慶応大学水泳部。他に責任の負い方はないのだろうか。
ジャーナリストの堀潤氏は「連帯責任の取り方のバリエーションが乏しすぎる」と指摘。
「連帯責任はあってしかるべきだと思うが、それぞれの責任の負い方にグラデーションをつけてあげてほしい。大学がこの問題を発信して『なぜ僕らはこういうことをしてしまったのか』と、学生が改善策を考えるプログラムを休み期間中にやるなど、いろいろな形ができるのではないか。連帯責任でスポーツだと出るか出ないか、それしか社会が許容していない。バリエーションが乏しすぎると思う」
リディラバ代表の安部敏樹氏は「大学側や指導者側の目線で見たとき、学生や生徒をコントロールしたい欲求を感じる。それがすごく嫌だ」とコメント。
「何か事件が起きたら『部の活動を停止するよ』という脅しを作れる。その脅しがあると今後も指導しやすい。大学側も各部活に強気で出ていける。コントロールしたい側、指導する側が楽だから、連帯責任という言葉を使っていないか。僕は個人的にスポーツの連帯責任であれば、スポーツの競技の中だけで閉じるべきだと思う。私生活まで含めて連帯責任を過剰に濫用するのは、むしろ危ないのではないか」
その上で、安部氏は「個人の未来の可能性を潰す判断は大学のブランドを落とす」との解を示す。
「大学は一人ひとりの個がちゃんと生きるように、未来の職業を見つける場所だ。大学のブランドを守るための判断であれば、教育機関として質が低いと思う」
安部氏の意見に、大峰氏は「教育として、なぜ連帯責任を課すのか、説明する必要があると思う。例えば100人の大所帯の部で、一部の学生だけが何か不祥事を起こしたときに『全然知らないことでなぜ自分が罰せられるのか?』と学生に聞かれたら、指導者や大学はおそらく説明できないだろう。アンフェアなところを説明できずに終わるのは、教育上、私はよくないと思う」と発言。
「例えば、誰かのプレーのせいで、罰のために走らされたとする。それが、許容できる範囲を超えてさせられた場合『こいつのせいで自分たちが練習を多く課された』と思う学生もいる。友情で団結するケースもあるが、ターゲットになってしまって『自分は毎回練習で足手まといになるから辞めよう』みたいな圧力も出てしまう。なかなか難しい問題だ」
海外には連帯責任という言葉はあるのだろうか。
「連帯責任の研究もある。コレクティブ・レスポンシビリティという形で、研究がされている。ただ、海外のスポーツ哲学に関する論文を見ていても、スポーツにおける連帯責任の議論は、論文の中にほとんど出てこない。出てくるのは、政治哲学などの領域において、国家の戦争責任に対し、子孫が責任をどれだけ負うべきかなどの議論だ。スポーツにおいては、なかなか日本的なものだと思う」
堀氏は「やはり曖昧な中で運用されているのが問題だ」とした上で「今は18歳以上は成人だ。大学に入ってスポーツをやるとき、ちゃんと契約を交わすべきだ。レギュレーションを決めて、その中でやる。もう大人なんだから『契約上、これが起きた時には何かが発生します』くらいやる。これは、教育にもつながるのではないか。スポーツマネジメントや、セカンドキャリアの作り方などを学んで、エージェントにも入ってもらえれば、選手たちが対等でフェアになる。教育機会に使ったらどうか」と話す。
堀氏の意見に、安部氏も「契約書の背景にある自由意志を学ぶ機会だ」と同意。
「自分の意志で決めて自分の意志で進めていく。本当はこれが教育でなくてはならない。自分が望んでチームに入って、そのスポーツの結果に対して、自分で望んで連帯責任に持つならいいと思うが、そうでないなら、本当に同調圧力だ。自由意志がちゃんと確認されているかどうかが大事だ」
大学スポーツ等で度々見られる連帯責任。果たしてそれが本当にふさわしいのか、見つめ直す必要がありそうだ。(「ABEMA Prime」より)
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