優勝経験国が敗退するなど、波乱含みだったグループ予選が終わり、ラウンド8になって、俄然W杯がW杯らしくなった。つまり「大会に相応しい顔ぶれ」になったのだ。
その代表カードが「オランダvsアルゼンチン」だ。欧州の猛者と南米の強者(ツワモノ)との勝負である。だが今やこの顔合わせを、「欧州vs南米」というレトリックな構図で括るのは時代遅れだろう。アルゼンチンの選手のほとんどはヨーロッパでプレーしているし、ヨーロッパの選手が南米のテクニックにいちいち驚愕することもない。
【映像】プライドを懸けた死闘 オランダvsアルゼンチン
勝利の行方は、それぞれの戦術、ピッチに立つ選手の気持ち、そしてボールがどちらに転ぶかを決める神様の御心次第と言える。
それでも、この試合の見どころはチェックしておこう。何といってもそれがW杯を楽しむ一番のエッセンスだし、次に同じ顔合わせがいつ起きるのかは誰にも解らないのだから。
まずはオランダから見てみよう。今回のオランダをいつものオランダとして見るのは間違いだ。彼らは本当に勝利に飢えている。ファン・ダイクが「面白くないサッカーと言われているのは承知している」と言うほど、勝利に繋がらないようなプレーを彼らはもう選ばない。
今のところ、オランダの主軸は左側だ。左でいったんゲームを落ち着かせ、相手陣営を寄せ付けて右へ大きく展開。そのボールに振られる形で相手DFにズレが生じたら、そのスペースに、後ろのガクポやブリント、そしてフランキー・デ・ヨングなどがゴールを狙うハイエナのごとく群がってくる。
美しいパスや、前線のトリッキーなドリブルや、観客席から思わず拍手が出るようなワンツーはもう今のオランダは数えるほどしか舞台に出さない。敢えて言うならアメリカ戦の1点目、デパイが決めたゴールまでの軌跡が、往時のオランダの薫りを感じたぐらいだ。
時にロングフィードで相手のラインを押し下げ、時に大きなサイドチェンジで相手の陣形を崩す。単調だが効果的なプレーが随所に出てくる。本来であればその主役はファン・ダイクなのだが、まだ決定的なパスを出すまでには至っていない。このラウンド8以降の大勝負まで隠しているのだろうか?
立ち向かうのは“メッシとその仲間たち”アルゼンチン。最終的にこの大会でアルゼンチンとメッシがどのような関係になっていくのか?は大変興味深いところだが、アルゼンチンが本当に勝利を手繰り寄せたいのであれば「メッシと心中」というリスクは避けるべきだろう。
アルゼンチンはメッシの動きが封じ込まれたときこそ、本当の真価が問われることになる。元来、アルゼンチンというチームは一人のスターに依存するチームではないし、依存する必要がないくらいのタレント揃いのはずだからだ。
だが、そのタレントたちは、永遠のライバル:ブラジルのように、派手なプレーやエレガントな身のこなしで、舞台を舞うようなことはしない。それよりも、勇敢なタックルや、ボディコンタクト、そして最後の最後まで走り抜き、最後の最後まで足を伸ばす。その「つま先」の差で勝利を呼び込んできた。(ケンペスの決勝戦のゴールもそうだ)
エレガントなボール扱いは、チームの勝利の前では優先度が低い。激しい寄せと、隙を見せればすぐさまボールを刈り取るマインド。全員で注意深く守り、全員の意思統一でボールを回し、スペースを崩し、そしてゴールを突き刺す。それはメッシでなくても全員が出来る力を持っている。
「下手だから肉弾戦に持ち込む」のではない。「上手すぎる能力があるのに、激しく戦う」。これがアルゼンチンの真骨頂なのである。
この両者の戦いは「生きるか死ぬか」「やるかやられるか」の勝負になる。
両者が最後の最後まで睨みあい、ライン際では激しくぶつかりあい、ゴール前では身体を投げ出す。この繰り返しが行われるに違いない。
勝利の行方は誰にもわからないが、両者の戦う姿勢だけはギラギラと伝わってくる試合。それがオランダvsアルゼンチンだ。
両チームのスターティングメンバーは以下の通り。
【オランダ】
GK
アンドリエス・ノパート
DF
ユリエン・ティンバー
フィルヒル・ファン・ダイク
ナタン・アケ
ダレイ・ブリント
デンゼル・ダンフリース
MF
マルテン・デ・ローン
フレンキー・デ・ヨング
FW
コーディ・ガクポ
メンフィス・デパイ
ステーフェン・ベルフワイン
【アルゼンチン】
GK
エミリアーノ・マルティネス
DF
マルコス・アクーニャ
クリスティアン・ロメロ
ニコラス・オタメンディ
ナウエル・モリーナ
リサンドロ・マルティネス
MF
ロドリゴ・デ・パウル
アレクシス・マック・アリスター
エンソ・フェルナンデス
FW
フリアン・アルバレス
リオネル・メッシ
(ABEMA/FIFA ワールドカップ カタール 2022)