岸田総理の掲げる「異次元の少子化対策」の柱のひとつとして、児童手当の拡充が議論されているが、所得制限の撤廃や第2子以降の増額、対象年齢を18歳までに拡大する案などが出ている。
この政策について、ニュース番組『ABEMAヒルズ』コメンテーターで社会学者の西田亮介氏に話を聞いた。
――まず、所得制限の撤廃の議論が進められているが少子化対策としての効果はあるのか。
「子育ては現行制度では一義的には父母等の保護者の責任とされていて、児童手当は子育て世帯をサポートする側面と子どもの健全な育成を支援することに主眼が置かれている。よって現行の児童手当は少子化対策として考えられていない。
改正するのであれば、少子化対策の文脈から変えていくのが重要だと思うが、今考えられている規模でいうと所得制限を撤廃しても高所得の人たちだけが対象になるので(対象は子育て世帯の5%以下)、印象とは異なり子どもをたくさん産みやすい環境、育てやすい環境を作ることには直結しないのではないか」
――かつて自民党は、所得制限の撤廃を「バラマキ」と批判していた。しかし主張が変わったのは、少子化への危機感からなのか、それとも他に狙いがあるからなのか。
「時期的に思い浮かぶのは、4月に予定されている統一地方選挙だ。全国で多くの選挙が行われるので、ここでもし自民党候補者が負けたり、不人気になるようなことがあると困るということではないか。3月13日の『脱マスク』もそうだが、統一地方選挙ひと月前ということが意識されている印象だ。内閣支持率が低い状態が続いているので、子育ての問題も早いうちに区切りをつけて統一地方選挙に挑みたいのではないか」
――その他に対象年齢の拡大や、第2子以降の増額などの案もでている。実現の可能性や財源についてはどうか。
「今、児童手当は中学生(15歳)までが支給の対象となっているが、これを高校生(18歳)までに拡大してはどうかという案や、多くのお子さんがいる世帯に傾斜をつけた給付をしてはどうかという案が上がっている。これは所得制限の撤廃だと単年度で1500億円かかると言われている。対象年齢を18歳まで拡大すると、単年度4500億円かかる見込みで、多子世帯の加算給付を行うとなると、インセンティブにもよるが数兆円かかるとされている。
所得制限の撤廃はすごく重要なことをやっているように思える一方で、必要な予算は年間で1500億円程度と見積もられていて対象も5%未満で、(相対的高所得な子育て世帯以外の)他の世帯にも関係しないことになる。所得制限撤廃はコストもかからないし、対象になる世帯もすごく少なくて、実はインパクトの小さな政策だ。本気で異次元の少子化対策をしたい、子育てを応援したいという政策には思えない。子育て世帯の無益な分断を防ぎ社会全体で子育て支援を行う雰囲気作りの観点で所得制限撤廃は支持できるが、同時に対象年齢の拡大や第2子以降の増額の方が、実際に子育てしている世帯からすればずっといいはずで、たくさん子どもを持つ場合にもより手厚い支援があれば安心できる。そもそも児童手当の予算は年1兆円強で最近の防衛費予算倍増論(年5兆円強を倍増!)より規模がずっと小さいし、現在の『異次元』議論もそうだ。政府与党はまだ全く本気ではなく、『異次元』などでもない。本気の少子化対策を考えるのであれば、児童手当の所得制限撤廃だけが先行することには懸念を覚える」
(『ABEMAヒルズ』より)
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