ウクライナの東部ドネツク州で、戦闘が一段と激しくなっていることを明らかにしたゼレンスキー大統領。ロシア軍による侵攻開始から1年が経ち、懸念されているのが兵士や国民の精神状態だ。
WHO(=世界保健機関)の欧州部局顧問は、ウクライナの人の4人に1人が深刻な精神状態に陥るリスクにさらされていると指摘。東部・ドニプロの精神科施設では、数百のベッドの半数を軍関係者が占めている状況を目の当たりにし、違法な向精神薬の使用も増加していたという。
戦地での体験が人々に与える影響について、軍事心理学の専門家である同志社大学の余語真夫教授に話を聞いた。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)や不安障害になりますと、自分が攻撃された時刻が近づいてくると毎日体が震えてとまらない、食べていたものを吐いてしまうなどの症状が出て、なかには暴れてしまう人もいます。PTSDやうつ病・不安障害がきっかけになって内臓の病気になることも。さらには、免疫力が低下してがんになる、あるいは脳の血管が異常を示すことなどもあるのです」
完全な終結までに8年を要したイラク戦争や、アメリカ史上最長の戦いとされるアフガニスタン紛争でも、帰国後にうつ病やPTSDを発症するアメリカ軍兵士が続出した。戦争が終わっても帰還兵を苦しめる“心の傷”は、アメリカでも社会問題となっている。
「メンタル面にダメージを負うと、兵士の能力や戦闘意欲が低下します。そういったことが既にロシア軍にもウクライナ軍にも起こっていて、前線で戦った兵士たちが『もう前線に行きたくない』と震えている現状があるのです。本当に生きるか死ぬかの世界。それは国民に関しても同じで、これ以上ないというくらい恐ろしい目に子どもやお年寄りが遭っています。結果として(メンタルの問題を)先延ばしにすればするほどロシアの思うつぼ。ウクライナは抵抗できなくなる日が訪れてもおかしくないのです」
どちらが優勢か、周囲の国々がどういった動きを見せているのかが注目される中「戦っている兵士、そして国民が“取り返しのつかないダメージ”に直面している現実にもっと目を向けるべきだ」と余語教授は訴える。
「一般国民に対しては、WHOや赤十字が中心になって世界各国から医師や福祉士・看護師・臨床心理士などを集めてケアに当たる準備を進めていると思いますが、ウクライナ国内はいつミサイルが飛んできてもおかしくない状態なので、人道支援が行き届きません。ウクライナの人々は自分たちでお互いに慰めあい、気配りをして『どうしたら生き延びられるのか』と考えて暮らさなければならない状態です」
戦争が心に与える影響について、ソマリアギャングの更生支援などを行っているテロ・紛争解決スペシャリストの永井陽右氏は、「メンタルの問題はどの紛争地でもメジャーとも言える大きな問題」だと述べる。
「交戦中はものすごくドーパミンやアドレナリンが出るが、それでも消せない恐怖は落ち着いたときなどにフラッシュバックします。どんな戦闘員・兵士であっても、同じ心を持った人間。指示・命令の下に行動していても“人間としての心”にダメージを負うのは共通です。たとえ、テロ組織と呼ばれるような反政府武装勢力であっても実は同じ人間。心に傷を負っています」
また、永井氏は自身が関わる投降兵や逮捕者についても「一人の人間として見たときどれほど厳しい環境だったかを目の当たりにしてきた」と経験を明かす。
「組織から逃げてくる投降兵は、“バレたら処刑”されます。そういう中で命からがら逃げてきた多くの若い投降兵から『本当に怖かった。怖くて怖くてしょうがなかった。そんな中死体や戦闘のビデオを何度も観せられた』などの話を聞きました。戦闘時に恐怖で震えてしまうときは、司令官から覚せい剤のような錠剤を渡され『それを飲んで行ってこい』と戦闘させられ、仲間も死んでいく。どんな経緯であれ戦闘員をやっていた青年たちだが、一人の人間として見たときどれほど厳しい状況だったか」
ソマリアやイエメンでは、西洋的なケアの方法をそのまま導入するのは難しいという。永井氏らは、現地の心理カウンセラーを起用しながら、イスラム教の教えに則る形のアプローチで、戦闘員らのメンタルケアに当たっている。(『ABEMAヒルズ』より)
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