やはり棋士の本分は、自分の対局を多くの人に見てもらうことだ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」の出場権を争うエントリートーナメントの模様が4月8日に放送され、関東Aブロックからは2大会続けてドラフト指名されていた郷田真隆九段(52)が勝ち抜き、自力で3大会連続での出場権を獲得した。実績、経験豊富なベテランながら、放送対局になる本大会出場に「対局を見ていただくのが棋士によって一番いいこと」と熱いコメント。「視聴者のみなさんの前で対局できるんで、大いに頑張りたいです」と力強く語った。
格調高く、居飛車を指し続けるから「一刀流」。これまで数多くの対局を世に送ってきた郷田九段が、腹を据えて強く指し続けた。本大会出場まであと2つとなった関東Aブロックの準決勝は、振り飛車党の井出隼平五段(31)と対戦。先手の郷田九段が居飛車、後手の井出五段が四間飛車の対抗形になると、郷田九段は穴熊にしっかり囲ってから戦いを始めた。序盤に十分な陣形を組めた郷田九段は、自玉の堅さを活かして積極的な攻め。途中、井出五段の逆襲を食らい、一時は形勢不明もしくは逆転を許したかという場面もあったが、持ち時間もわずかになったところで穴熊の堅さが活きる展開に。最後はきっちり1手勝ちを収めて決勝に進んだ。
阿久津主税八段(40)との決勝は、先手番から横歩取りに。先に仕掛けてきた阿久津八段に対し、郷田九段が冷静な対応でペースを握ると、中盤を迎えるところでははっきりと優勢を築いた。ところがここから粘り強い阿久津八段の持ち味が発揮され、戦いは再び混戦模様に。時間切迫で阿久津八段の手元が乱れるシーンもある中、郷田九段は最後まで冷静さを失うことなく、しっかりとまとめ切った。
今回のドラフト会議では、ベテランの指名がグッと減り、勢いのある若手が多く選ばれた。超早指しへの適性を考えれば妥当でもあるが、ファンとしてはベテランの奮闘も願うところ。そんな思いが通じたのか郷田九段がエントリートーナメントを6連勝で勝ち抜き、自力で本大会へと進んだ。「厳しい予選を勝ち上がれてうれしく思っています。苦しい将棋もありました」。過去の本大会成績は7勝7敗、勝率5割。負ければ終わりのトーナメントを勝ち抜いてきた一刀流は、より研ぎ澄まされて再び対局場に姿を現す。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)