去年11月に公開された対話型AI「ChatGPT」。能力の高さゆえに国内外でリスクを避ける対応が続出しているが、10年前に同じような葛藤に直面し、AIとの付き合い方を試行錯誤してきた業界がある。それが将棋界だ。
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2005年に登場した将棋AI「Bonanza」は、世界コンピュータ将棋選手権に初出場で初優勝。2007年、渡辺明竜王との対戦でも勝利まであと一歩に迫る。2013年の「第2回電王戦」、プロ棋士5人と世界コンピュータ将棋選手権上位5ソフトによる団体戦は、AIの3勝1敗1引き分けとなり、将棋界は悲壮感に包まれた。
そうした状況を開発者はどう見ていたのか。弁護士で、2020年の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝した将棋AI「水匠」開発者の杉村達也氏は次のように話す。
「昔はプロ棋士の棋譜局面を“それが絶対正しいものだ”というかたちで勉強させて、いかにプロ棋士の指し手に近づくことができるかという学習を続けていた。次はAI同士が対局を続けることによって勝ち負けがつくと、そのデータを学習させてちょっとだけ強いAIが生まれる。その強いAI同士で戦ってまた局面データが表れて、学習して…と繰り返していく、いわば無限ループで将棋AIが強くなっている」
人間が思いつかない“常識外の手”を指すAIが、埋もれていた定石を見つけ出し研究が深まったと、大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員の古作登氏は説明する。
「事前研究というものがプロの間で重要になってきた。もう1つは、自分が指した棋譜をAIに評価してもらうというもの。角と金の交換は『角のほうが得だ』というのはどの本にも書いてあるが、角金交換でも金のほうがいいとか、駒損はしていても攻めたほうがいいとか、今までの常識を書き換えてきた」
2016年に14歳2カ月でプロデビューし、加藤一二三九段の最年少記録を62年ぶりに塗り替えたのが、藤井聡太六冠。その一戦で加藤九段を破ると、連勝を「29」まで伸ばし、公式戦最多連勝記録もあっさり塗り替えた。AI時代の申し子の活躍は、“敵から相棒へ”というAIの使い方を世に知らしめた。
「AIはあくまでツールであって、実際に決断するのは人間。AIが将棋を指すわけではなく、道具として上手に使う。人間には持ち時間、寿命があるが、将棋に関して言えば、50年前に比べてAIを使った今は100倍以上勉強できる」(古作氏)
AIの登場から10年、将棋界はその経験を通じてどんなことがわかったのか。「人間の本質的な知的能力はそんなに変わっていない。人間は間違えるもので、不完全な人間ができるだけ完全を目指して頑張る姿が面白い」と古作氏。
今後のAIとの付き合い方について、京都大学国際高等教育院の金丸敏幸准教授は「これからは記憶力や知識は問題ではなくて、AIとどういうやりとりをするか。ある意味、AIとのコミュニケーション能力というものが非常に重要になってくる」と語る。
将棋AI「水匠」開発者の杉村氏によると、通常のパソコンでAIを用いると1秒で15手先程度まで読めるというが、人間がAIに勝つことはできるのか。「実力がレーティングという数値で表されるが、人間のトップと将棋AIで差が開きすぎていて、人間は99.99%勝てないんじゃないかと計算上は出ている」という。
一方で、「将棋の可能性は“10の220乗”あると言われたりするので、考えだしたらキリがない。だからこそ、理詰めだけでなく感性が大事。そもそも棋士のひらめきが日ごろ軽視されている」と話すのは加藤九段。
「私がテレビで将棋の解説をしたら、しばらく経って同じ内容をAIが示した。これは一例だけれども、スピードはめっぽうAIは速いが、私の読むスピードのほうが勝っているというのは体験から思っている」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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