2023年1月、新型コロナワクチンで一躍有名となった製薬大手「モデルナ」が、日本の大学発のバイオベンチャー「オリシロジェノミクス社(以下オリシロ社)」を約110億円で買収すると発表した。
モデルナを魅了した「合成生物学」の技術とはどのようなものなのか。創業者の一人、立教大学の末次正幸教授に話を聞いた。
「我々が開発したのは細胞を使わずにDNAを『合成する』技術だ。従来の大腸菌を使った方法では時間とコストがかかっていたが、この技術を使えば試験管の中にある反応液に少量のDNAを入れるだけで増やすことができる」
2018年12月にオリシロ社が細胞を使わずに効率的にDNAを合成する技術をキットとして販売したことにより、薬の開発・製造速度などが大幅に加速するとされている。
この技術を発明・実用化させた合成生物学とは、どのような学問なのだろうか。
「これまでは生命現象をパーツごとに調べる研究が多かったが、合成生物学ではそうした生命現象そのものを試験管の中で“人工的に再現しよう”と研究している。そうすることで今までになかったような生命現象もできると期待されていて、もしできれば“新しい創薬につながる技術”となるだろう。
一方でサルとヒトなどの哺乳類や、別々の動物のDNAを組み合わせてなどは倫理的な問題があるため、研究はもっと低い次元で行っている」
生物学に工学の発想を組み合わせた研究で、その過程で生まれるさまざまな技術が幅広い分野での活用が期待されているという。創薬事業に着手していたオリシロ社にとって、モデルナからの申し出は渡りに船だったそうだ。
「生命を創って理解する!」を理念に研究を続ける末次教授に今後の目標を聞いた。
「生命は40億年かけて進化しながら地球環境などの課題を乗り越えてきた。それらが研究室で再現できることを目指している」
このニュースについて、遺伝子解析のベンチャービジネスを展開する株式会社ジーンクエスト代表取締役・高橋祥子氏に話を聞いた。
「私も研究室にいた時に大腸菌を使ってDNAを増やす過程を体験したが、すごく時間がかかるし、生物なので管理も大変だった。研究室レベルでも大変な作業なので、モデルナほどの企業であればより膨大なコストがかかるのだろうと推測できる。
DNAといえば二重螺旋の模型だが、末次教授の開発したDNAの培養は、あの螺旋を一度剥がして、同じような配列で増幅させているということだろう。何十種類かのタンパク質の溶液に入れることで、大腸菌などの生物を使わずに増やすことができるのではないか。将来的には低コストでできると思うので、非常に画期的だ」
続けて、高橋氏は合成生物学の可能性について、次のように考えを述べた。
「今回のように大腸菌という生物が持っている『DNAを増幅する機能』の再現など、生物の持つ機能を試験管の中で作る学問を総称して『合成生物学』と呼んでいる。絶滅した生物を再現することも理論上はできる。倫理的な問題はあるものの、今後もできることは増えていくのではないか。
大学の研究者が起業するというのは、アメリカではスタンダードになっているが日本での事例はまだまだ少ない。それでも大学の技術に投資しようというベンチャーキャピタルやファンドは増えていて、国もそれを後押ししていく方針だ。今後も支援は手厚くなっていくと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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