あまりにもセンセーショナルな新星の登場だった。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Eリーグ第1試合、チーム渡辺とチーム千田の対戦が7月8日に放送された。この日の主役は、チーム千田の藤本渚四段（17）。第2局では渡辺明九段（39）、第3局では佐々木勇気八段（28）と順位戦A級所属のトップ棋士を次々になぎ倒す活躍ぶりでチームメイト、相手チーム、ファンに大きな衝撃を与えた。
藤本四段は、2022年10月1日付でプロデビュー。現在17歳の現役最年少棋士として注目を集めているが、その実力も折り紙付き。公式戦でもめきめきと頭角を現しデビュー以来16勝5敗、勝率0.7619と好成績を残しており、プロ入り早々ながら千田翔太七段（28）のドラフト指名を受け大会初出場が決まった。
藤本四段の初登場は、チーム渡辺との第2局。ここでいきなり渡辺九段との対戦が決定した。収録当時名人在位中と将棋界の頂点に君臨する大先輩との対戦に、「自信はないが（渡辺九段と）指せることが嬉しい」と顔をほころばせながら対局場へと向かった。後手番の藤本四段は、得意の雁木を志向。渡辺九段は矢倉の出だしから、その代名詞ともいえる鋭い攻めを繰り出していった。しかし序盤にミスが出たか、藤本四段はそのわずかなほころびからリードを拡大。渡辺九段の攻めをすべて受け切り、大金星を手にした。
時の名人を撃破した藤本四段だったが、どこか現実味が薄い様子。やや間を置いた後に「一生忘れないと思います」と喜びをかみしめた。解説を務めた藤森哲也五段（36）は、「終始落ち着いていた。渡辺名人といえば攻めだが、それを全部受け切って勝つという。この若手は只者ではないというのが視聴者の皆様にも伝わったのでは」とその衝撃を語ると、視聴者からも「つえええ！」「なぎさくん！！」「ビックリしました」「ジャイキリキター！」「めっちゃいい笑顔」「嬉しそう」「パーフェクトゲーム！」「好感度爆上がり」などの声が殺到していた。
新人棋士に敗れた渡辺九段は「序盤にミスに出てしまって、そこが致命的になってしまった。雁木を指し慣れている印象で、先の展開を読まれているようで出遅れてしまった」。チームメイトの元に戻ると、「すみません、グランド3周だ…。3周じゃ効かないね、10周レベルの将棋指しちゃった…」と頭をガックリと垂れて悔しそうな表情を見せていた。
圧巻の内容にリーダーの千田七段は「存分にやってしまいなさい」と背中を押し、藤本四段の続投を指示。第3局・佐々木八段との対戦を任せた。順位戦A級への昇級を決めた強豪でフィッシャールールでも経験豊富な佐々木八段との一戦は、相掛かり戦が千日手に。辺九段との一戦では高い受けの技術を見せた藤本四段だったが、指し直し局では受けから攻めにギアチェンジして幅の広さを見せつけた。互角の局面が続いていたが、攻撃のターンを手にした途端に止まらぬ勢いを見せ佐々木玉を詰みに討ち取った。
完勝ぶりは控室の渡辺九段も「いや、強い…」とつぶやき扇子をぱたぱた。驚きと動揺を隠せない様子だった。藤本四段は「後手番の方は作戦はっきりしているので指しやすい」と千日手指し直し局で回ってきた後手番を活かし、実力を発揮。トップ棋士を次々に撃破する堂々たる指し回しとは一変、インタビューでは「勝てると思ってなかった方に勝てて、ビックリの方が大きいです」と17歳らしい初々しいコメントも残していた。
藤森五段の「強すぎるよ、止まらないよ」との熱い解説に、ファンは「（伊藤）匠のデビュー思い出した」「見えるね～」「つえー」「やばい、強い」「おいおいおいなんだこの強さ」「すごい」とここでも大興奮。“新星”の誕生に歓喜していた。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
（ABEMA／将棋チャンネルより）
