人によって異なり、“究極の個人情報”とも言われる遺伝情報。がんの発見に活用されるなど「陽」の一面もありつつも、差別の温床になるなど「陰」の側面もあるという。『ABEMAヒルズ』では、遺伝子解析のベンチャービジネスを展開する株式会社ジーンクエストの代表取締役・高橋祥子氏に話を聞いた。
先月9日、ゲノム医療を適切、且つ安全に受けられるようにする法律「ゲノム医療推進法」が成立した。これにより、ゲノムを有効に使って病気の早期発見や治療を進めるほか、ゲノムによって生じる雇用や教育の面などでの差別を防ぐための対策を講じることになる。
しかし、必要とされる施策はまだ定まっておらず、罰則も設けられていないという。こうした状況に、SNSでは「“究極の個人情報”と言われているのに、『差別がないようにする』だけで良いとは考えにくい。悪用されないのか?」など疑問の声があがっている。一方で、遺伝情報を適切に利用すれば、よりよい医療が提供できる期待もあるという。
そもそも「ゲノム」とは何を指しているのだろうか。高橋氏は次のように解説する。
「ゲノムとは遺伝子情報の全体像のことだ。遺伝子のことを英語でジーン(gene)と言い、ジーンの全体を『ゲノム』という。ゲノム医療とは全員に同じ治療を提供するのではなく、それぞれの遺伝子情報に合わせた最適な治療を行うことで治療効果の上昇や医療費の削減が想定されているものになる。ゲノムの研究が進むことで、まだ治療法のない病気の治療法が開発されるなどの期待がある」
また、ゲノムが“究極の個人情報”と呼ばれる理由について高橋氏はこう述べる。
「遺伝子情報は、基本的には一生変わることがないと言われている。後から変えることができないので一度でも漏洩するとリスクが大きいということだろう。ただ、ゲノム配列単体の情報が公開されたとしても、どこの誰のものかといった特定は技術的にまだできない。遺伝子の配列情報と個人を特定する情報をどのように管理・活用していくのかも大事なポイントだ」
最後に、ゲノム医療法が成立したことについて、高橋氏は自身の考えを明かした。
「アメリカなどではゲノム医療が差別に使われた事例もある。雇用や保険に遺伝子情報が活用されてしまい問題になったり、白人至上主義の団体が『自分がどれくらい白人かを解析する』などと差別の言い訳として使ったことに対して、アメリカの遺伝学会が緊急声明をだして批判したこともある。遺伝子には人種という明確なものはなく、全て“グラデーション”だ。混じり合っているなかで『ここは白人。そこは黒人』といった明確なものはない。非常にナンセンスだった。こうした海外の事例を見ていると、日本での活用も『保護』が大事になってくると思う。
アメリカでは10年以上前に『遺伝子差別禁止法』が成立しているが、これまでの日本にはなかった。今回成立したゲノム医療推進法に罰則はないものの、法律で“差別”について明記されたのは初めてだそうだ。ゲノム医療の推進に向けて1歩前進したと思う。ゲノム研究の8割は欧米の集団によるものなので、日本などアジア人のデータは少ない。日本がゲノム研究を進めていくことは非常に重要なことだ。しっかりと進めてほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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