若者間の不平等
【映像】「帳消しすべき」vs「不平等」大激論バトル
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 大学を卒業し社会に踏み出したものの、重くのしかかる奨学金の返済に悲鳴を上げる若者が増えている。

【映像】「帳消しすべき」vs「不平等」激論バトル

 奨学金を受給している大学生は令和2年度で49.6%、およそ2人に1人で、中でも返済が必要な貸与型奨学金を受給している人は全体の36.6%となっている。

 岸田総理も少子化対策の一環として教育費の支援を重視。国が授業料を一時的に肩代わりし卒業後の所得に応じて柔軟に返済する出世払い方式を拡充する方向で調整しているが、非正規労働の増加、円安や物価高騰で生活に余裕がなくなる中、SNSでは、こんな声もあがっている。

「20代30代で奨学金返済。結婚なんて無理」
「奨学金返済のために働いているようなもの」
「海外の支援やブライダル補助金以前に奨学金のこと考えてくれ」(Xへの投稿)

 こうした中、奨学金の返済に苦しむ人を救おうとあるプロジェクトが立ち上がっている。

“奨学金帳消しプロジェクト”とは

奨学金帳消しプロジェクト
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 2022年6月に“奨学金帳消しプロジェクト”を立ち上げたのは、労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」メンバーで一橋大学大学院生の岩本菜々氏。活動を通じ、債務の取り消しや学費の無償化を目指していくという。

 プロジェクトのもとには、「親子で自己破産した」「働き過ぎて救急車で運ばれた」等、奨学金返済に関する深刻な相談が毎日のように寄せられているが、社会的にはいまだ「奨学金は頑張れば返せるもの」という声が多いという。岩本氏はこうした状況の中でも政府は対応しないと指摘し、若者の奨学金による貧困の実態を明らかにし、政策の転換を求めていく必要があると考えた。

「あくまでも帳消し」岩本氏の主張

奨学金に関するデータ
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 問題となるのは、その財源。プロジェクトが実現したら、貸与型奨学金の返済を税金で肩代わりすることになるのか。岩本氏は「帳消しの方法はいろいろある」とするも、何の財源で補填すればよいのかという問いに対しては「その時にならないと分からない」と明言を避けた。一方で「財源をどうするかは社会保障の話になった途端に言われるが、コロナの予備費で何兆円ものお金が使途不明だったりする問題もある。財源をどこにどれだけ振り分けるかも議論すべき」と自論を展開した。

 また、国が支援している方針については、「出世払い型は、年収がある程度に達したら返さないといけない。また額が全く変わらないという意味では根本的な解決策になっていない」と話す。返済できず困窮している人に対する減免や減額の制度がないことが問題だという。

政府の方針
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 他に、国の制度として教員になれば返済が免除される「免除職」や、企業が肩代わりをする「代理返還制度」もあるが、これらについても「貧困問題は何も解決しない」との考えだ。現状、奨学金を借りている大学生の大多数は教師以外の職に就く。代理返還制度についても、むしろこの制度によって若者が劣悪な企業に縛り付けられる“債務奴隷”になってしまうと懸念も示した。

 さらに、返済猶予延長、年収300万円以下の要件を下げる等の対応もあるが、これらについても「今返せない人は10年後にも返せない」と否定的。猶予が切れた後に自己破産したり、過労で体調を悪化させたりといった現状がある以上、猶予が解決策になるわけではない。あくまでも“帳消し”、それが岩本氏の主張だ。

若者間の“不平等”問題

若者間の不平等
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 しかし、奨学金を借りている学生の間にも不平等感は残る。

 リディラバ代表・安部敏樹氏は、「奨学金を借り返済する背景は様々で、帳消しにするタイミングによって、どうしても平等にはならない」と課題を指摘する。

 大学進学を諦めて高卒で社会に出た人の中には「返済が帳消しになるなら自分も大学進学を諦めなかった」という人もいるだろう。

 岩本氏は「大学を諦めた人の苦しみは、そもそも日本の教育政策が作り出した。これから奨学金が免除される人のせいではない」と反論するが、今から奨学金返済を帳消しにする場合、一時的な不平等が生じ、そこに対する不満が生まれてしまうのも事実だ。

 さらに岩本氏の主張について、安部氏は「残念な、もったいないところがある」と指摘。「一番の課題は、国が若者に対して冷たいということと、若者に対する機会をもっと提供すべき、ということ。ところが、“奨学金帳消し”は若者同士の不平等感が出てしまうソリューションになっているので、課題意識と解決策があまり連動してない」と切り込んだ。

 さらに、「最終的にすべきなのは4年間の学費を若者全員に配ることではないか」と提案。「奨学金を借りている人は返済に充ててもいいし、返済に充てずに持っておくのもいい」。つまり、課題解決したいことが若者の貧困なのであれば、奨学金に使わなくてもいいのでは、という考えだ。

 しかし岩本氏は「そういった議論もあったらいい。ただ、ここでいくら解決策を議論しても、結局それで政策が動くわけではない」と回答。「まずは今、奨学金を返せなくて困窮していたり、人生の選択肢がまさに奪われている若者がいる。そこへの対応をどうしていくのかを考えて、政策に結び付けていくことが必要」と強調した。

若者間の不平等
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 アメリカでは、困窮する若者が債務帳消しを求めてストライキを起こし、奨学金の一部帳消しが実現している。ただ、アメリカはZ世代の人口が多いため、政府は得票を目当てに支持したという見方もある。少子化が進む日本において、安部氏は「いかに若者の分断を生まずに政策を作っていくか、運動を作っていくかがすごく大事だ」と訴える。そして、「“若者の世代”を味方に付けたいのであれば、全員を味方にした方がよい。“奨学金帳消し”では若者内での対立が生まれてしまい支持を得づらい構図ができてしまう」と懸念を口にした。

 これに対し岩本氏は、「自分たちも苦しい、“奨学金帳消し”が不平等だという意見があるのであれば、その人たちに一緒に戦おうと言いたい」と語気を強める。奨学金だけでなく、労働問題や社会保障など様々な回路で戦いを広げていくことが重要だと語った。

奨学金帳消し「若者間の不平等」
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 奨学金情報サイト『ガクシー』代表の松原良輔氏は、「不平等感は、財源が税金なのか民間のお金なのかで大きく変わってくる」と話す。松原氏は、民間の力を負担の軽減に使うべく、自身の会社でも奨学金の“代理返還制度”を取り入れていると話したうえで「『ガクシー』も、民間の代理返還制度に参加する人や企業を増やすことを狙いとして立ち上げたものだ。ほとんど広告なしで会員登録も増えている。ニーズはずれてはない」と手応えを口にする。

 その上で「出世払いの猶予を設けるのも、財源が苦しい中の打ち手のひとつ。まずそういう施策を少しでも増やして解決に近づけていくのが現実的」と意見しつつ、「少しの不平等感は目をつぶるしかない」ともこぼした。(『ABEMA Prime』より)

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