イスラエルとイスラム組織「ハマス」の衝突からまもなく1カ月。戦闘が激しさを増す中、イスラエルとガザ地区双方の犠牲者が、合わせて1万人を超えた。イスラエルのネタニヤフ首相は「我々は目的を達するまで、勝利するまで、戦い続ける」と述べた。
そんな中、懸念の声が高まっているのが「オイルショック」。世界銀行は「今後紛争が激化した場合、最悪、原油価格が最大75%上昇する」との試算を発表した。オイルショックといえば、今から50年前、原油価格の急激な高騰をきっかけに、狂乱物価と言われる急激な物価高となり、日用品の買いだめのため市民がスーパーなどに殺到し、大混乱となった。その原因となったのが、イスラエルと中東諸国が戦った第4次中東戦争だった。
原油の大半を中東産油国に頼っている日本。今回のイスラエルとハマスの衝突で、再びオイルショックに襲われてしまうのか。『ABEMA Prime』で、中東情勢から日本の危機管理を考えた。
■「台湾有事のほうがはるかに大きなリスク」
国際大学学長の橘川武郎氏は「正確には、世界銀行は“来年は原油価格が下がる”と言っている」「昔とは状況が全く異なる」と、オイルショックの可能性について否定的だ。
「当時は中東の国々が一致団結して、イスラエルあるいはアメリカを中心とする石油消費国と戦った。今回、中東の石油輸出国はできれば事を大きくしたくない。“このまま自分たちのビジネスを続けさせてくれ”というのが本音で、そこが決定的に違うと思う。最悪のシナリオがあるのは、戦いがサウジとイランに本格的に及んだ場合だが、可能性はあまりないと思っている」
グローバル石油関連企業のCEO・石油王氏は「今みたいにシェールオイルがたくさん産出できた時代とは違うので、オイルショックまではいかないのではないか。ただ、原油価格は上がると思っているので、今のうちに原料は確保している」と明かす。
紛争長期化の懸念について、橘川氏は「イスラエルのネタニヤフ首相の首がかかっているし、バイデンさんが大統領選挙で危うくなってきている。アメリカが国内で票を取るため、治めるほうではなく火をつけるほうに回ると、長期化の要因になると思う」との見方を示した。
イランが紛争に関与し、ホルムズ海峡を封鎖すると、原油の約9割を中東に依存する日本は輸入できなくなる恐れがある。タレントのパックンは「実際に起きる確率はめちゃくちゃ低いと思う。イスラエルもガザも、別に石油を作っているわけではない。周りの国々も限定的な反応で、戦いを拡大したいという国は1つもない。バイデンが支持率回復のために火をつけるというのも全くないと思う。アフガニスタンから軍を撤退させたし、アメリカが戦って喜ぶ国は1つもない」とした。
橘川氏は「台湾有事のほうがはるかに大きなリスクになる」と警鐘を鳴らす。
「原油のルートは、天然ガスや石炭、それから食料の通路にもなっている。オーストラリアとかインドネシアから天然ガスや石炭が来ていて、あの近くを通るが、台湾有事と緊張が高まると海が安全ではなくなる。そのインパクトは計り知れないものがあるのではないかと危惧している」
■原油は枯渇する? 中東依存からの脱却は?
コラムニストの河崎環氏は「私は第一次オイルショックの頃の生まれで、小さい頃から『いつか原油はなくなる』『石油に依存した生活はできなくなる』と言われていた。これをずっと繰り返していないか? 石油が産業の血液であるという世界観から脱却して、中東危機で経済不安を感じるという状況から卒業できるのか?」と投げかける。
橘川氏は「枯渇するというよりも、二酸化炭素をたくさん出すために地球温暖化の原因になっているという文脈の見通しは出ている。世界の需要も2040年ぐらいにピークアウトして減っていくのではないか、と言われている。油田というのは、下に100あるとすると、30ぐらいしか取れない。残りは技術の進歩が高まると取れるが、それにはお金がかかる。原油価格が上昇すると技術が投入できるようになるので、その度に“40年先になくなる”というのを繰り返す」と説明。
パックンは「世界銀行の発信の思惑として、中東情勢が不安定になる度にパニックになるのであれば、石油依存からシフトしてくださいというメッセージがあると思う。オイルショックが起きた時のトイレットペーパーどうのこうのを議論してもいいけど、日本でもっと大事なのは依存度を下げて自給率を上げることだ」と指摘する。
橘川氏は「日本のエネルギー自給率が十数%、食料自給率が40%くらいで、これがこの国の一番の弱さだ。エネルギー自給率を上げるには2つしかなく、原子力と再生可能エネルギー。原子力は非常に重たいエネルギーで、私は反原発ではないが、そう簡単に増やせない。となると、太陽光や風力、地熱、水力、バイオマスといった再生可能エネルギーに頼っていくのがこれからの王道だと思う」と述べた。
一方で石油王氏は「日本は地震国で、大震災が起きた時に再生可能エネルギーを使って復興するのはなかなか難しい。東日本大震災の時、私はタンクローリーで東日本に(石油を)運んだ経験もある。現場は再生とか環境とか言っている場合じゃなく、とにかく一日生きるのがやっと。結局、原油(の利用)はなくならないと思う」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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