研究室に山積みの本があることで有名な東京工業大学の西田亮介准教授が、「2024年の社会課題を読み解く本」を5冊選出。年末年始の休みに読むことも考え、「分厚いが難解でないもの」を基準に選んだという。それぞれについて紹介した。
【映像】棚からあふれ、机に山積み… 西田先生の“衝撃の研究室”
1冊目は『もういちど読む 山川日本戦後史』(山川出版社)。その内容について、次のように説明した。
「言ってみれば1番スタンダードでとにかくオススメの1冊だ。社会問題を考えるのはここから始まると言ってもいいぐらい全ての『基本』となっている。中等教育のカリキュラム進行の都合で割愛されがちな『日本戦後史』の政治、経済、文化が1冊に網羅されている。
また、教科書を念頭に置いた5章構成の標準的な内容で作られているので、1日に一章ずつ読んで頭に入れていけば、年末年始の5日間でこれから起きる社会課題を考える上で標準的な知識を身につけることができる。予備知識などがなくても読むことができるところもオススメだ」
2冊目はアメリカの国際政治学者ヘンリー・キッシンジャー氏の『国際秩序』(日経BP)上下巻だ。今年亡くなったキッシンジャー氏については、こう話す。
「(キッシンジャー氏は)外交実務でも多面的に活躍し、いい話も悪い話も沢山ある方だ。この本では、国際関係の動乱をどう考えていくのか、今までどんなことが行われていたのか、世界秩序の裏側でアメリカにおけるブレーンたちが何を考えていたのかが垣間見えてくる。単に学者だっただけではなく、実務にも深く関わった人の目線として含蓄が深い」
3冊目は『世襲 政治・企業・歌舞伎』(幻冬舎)。
「この本は『日本社会の闇』を垣間見ることができる本だ。いわゆる“世襲”がよく行われている各界の話が事例になっているが、その内容がとにかく詳しい。人間関係の縦の繋がりをものすごく詳細にたどっていて、目からウロコみたいな話が多くあり率直に面白い。光を当てるためには、闇のことをよく知らないといけない。そんな観点でオススメできる1冊だ」
4冊目に紹介したのは『知の統合は可能か』(時事通信社)。世界中が振り回されたコロナによるパンデミックの時期を振り返った本になっているという。
「ポストパンデミックの社会を考えるためには“パンデミックの時期”を振り返らなければならない。著者の瀬名秀明氏は有名な小説家だが、薬学博士でもある。10年前の新型インフルエンザのころから、感染症や科学の案内書/入門書のような良質な本を多く書かれていて、これもその一冊だ。様々な分野の人との対談形式で、コロナ期はどうだったのか、どんな課題があるのかを文系(科学技術社会論)の観点含めながら書いている。極端な意見や論者ではなく、標準的な見解が示されているのでオススメできる」
5冊目は『グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性』(プレジデント社)。選出の理由については「2000年分の知らないことがいっぱい書かれている」として、次のように語った。
「グランゼコールというフランスのエリート養成校の教育内容から抜粋した内容になっていて、ギリシャの時代から近代までの各時代の歴史、宗教、哲学などがひたすら書かれている。2000年の特に文系知が詰め込まれていて、特に近代以前のパートではぼくも聞いたことのない話が本当にたくさんあった。もし、フランスのエリートたちがこれら全てを頭に入れているのだとすると、彼ら彼女らが改めてすごいと思える」
この5冊をすべて吸収できれば相当な知識が得られるが、本当に読破できるのか…という不安に対し、西田氏は「読み切れなくても問題ない」という。
「本を読むためにはとにかくまずは『手に取ること』が大事だ。本に書いてあることの大半の情報は、すぐに必要になったりはしないので、忘れてしまっても気にする必要はないし、類書を読むと潜在記憶から思い出したり、アイディアとして別のかたちで湧いてくるものだ。1冊でも多く読む。読み切れなくて積読になっても、業界や出版社、僕らのような著者にはもう確実に貢献しているので、『文化に貢献した』ことになるし、少なくとも購入してリビングの本棚に並べておけば知的なインテリアや話題のきっかけになるので、1000円からせいぜい数千円の価格を思えばそれでも十分リーズナブルなはずだ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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