多くの死者、行方不明者を出した能登半島地震。いまも避難所生活を余儀なくされている人が多いが、過去の震災時には避難所などで女性の弱い立場につけ込んだ性暴力があったという。被災地における性暴力の実態を調査したNPO法人の代表に話を聞いた。
【映像】体育館で寝ている若い女性の横に男性(確認された性被害)
認定NPO法人「ウィメンズネットこうべ」が参加した「東日本大震災女性支援ネットワーク」の調査によると、東日本大震災では避難所での女性や子どもに対する性的暴力や身体的暴力、セクハラ行為などがあったことがわかった。代表理事を務める正井禮子さんは、「避難所や仮設住宅、自宅など、人が住んでいる、暮らしている辺りでそういう性被害が起こっていた」と話す。
調査報告では82件の事例があったとし、そのうち16件は発災直後の2011年3月末までの間に起きていたという。また、82件の被害の内容としては、同意のない性交の強要は10件、性的いやがらせは19件あったという。
「体育館で寝ている若い女性の横に寝に来るという人がいた。『セクハラだからやめてください』と言ったら(男性が)『どこで寝ても関係ないだろう』『自分の自由』だと」(正井さん、以下同)
確認された被害はこれだけではないという。
「授乳している姿をずっと、じっと見ている視線がすごく怖かったという。(被害者は)怖いという表現をされていた」
さらに、更衣室を覗かれる、性行為の強要を受けるといった被害も。
正井さんが東日本大震災での被害調査を行うきっかけとなったのは、阪神大震災で被災した女性が語ったある言葉だった。
「その人はシングルマザーで赤ちゃんがすごく小さかった。仮設住宅が不便なところに建てられているので、なかなか買い物に行くのが難しかった。そしたら近所の仮設のおじいさんに『私が代わりに買い物に行ってやる』と言われて、いつもお世話になっていた。そうしたらある晩、お礼にと夕食にそのおじいさんを招いて、『これからもよろしくお願いします』と言ったら、『抱かせろ』という感じで性被害にあった」
被災地で起こったショッキングな体験談。「警察に届けたのか」と尋ねられた女性の答えは…
「『そこでしか生きていけないときに誰にそれを語れというんですか』と言われて、一滴涙がつーっとこぼれ落ちたのを見たときに、かける言葉がなかった」
被災地で見過ごされてきた性暴力。東日本大震災での調査を開始し、正井さんが特に衝撃を受けたというのは、「対価型」と呼ばれる性暴力が複数件報告されていたことだ。
「災害のときには物資がすごく足りないとか、食べ物がない飲み物がない、毛布とかそういうのもすごく少ないという状況が酷ければ酷いほど、『それをたくさんあげるから自分の言うことを聞け』とか」
震災で“夫や親を亡くした”、“家財を失くした”、“失業した”など。より弱い立場、支援を必要とする女性に対して、食料や生活物資の提供などへの対価として性行為を要求するという「対価型性暴力」が複数あったという。
「避難生活等における安心安全の確保が重要であることから、被災自治体等に対し、女性の視点からの防災復興ガイドラインに基づく取り組みを進めるよう引き続き要請する」(内閣府・加藤鮎子 特命担当大臣)
能登半島地震では、政府も早くから避難所における安全確保に言及していた。正井さんは、被災地では女性の弱い立場が顕在化しやすいと警鐘を鳴らす。
「避難所の運営がほぼ男性によって行われていたというのが本当に変わらない。仮設住宅に移ったときも運営リーダーが男性だったということで、やっぱり女性たちの思いが伝わりにくい。ちゃんと普段から、色々なところの運営に“せめて女性が3割いる”ということが大事だと思う」
「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」の調査報告書では、夫や元夫・恋人や元恋人による暴力、強姦や強姦未遂、その他のわいせつ行為、家族や親戚・近所の人からの暴力などが挙げられている。
東日本大震災女性支援ネットワークの調査では、災害復興に女性の視点を取り入れるために、性別に配慮した避難所の設計、女性防災リーダーの養成、「性暴力」被害者への理解と支援体制などを挙げている。
避難所での安全確保について、ダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介氏と、ニュース番組『ABEMAヒルズ』の柴田阿弥アナウンサーが考えた。
柴田:性暴力を防ぐためにも避難所の運営に女性の視点を取り入れることも大事なようだ。
神庭:男性のみの避難所運営だと、生理用品が手に入りづらい、更衣室や授乳のためのスペースがほしいといった女性の切実なニーズへの対応が不十分になる恐れがある。女性にも運営側に入ってもらうことが大切だ。
「性暴力はいけない」「気を付けよう」という精神論で終わらせずに、物理的にそういうことが起き得ない環境を整備することも重要。みんなが1カ所で雑魚寝するような状況をなるべく減らす。間仕切りやテントを設置するなど、1次避難の段階でも極力、プライバシーを確保する。それが難しいなら、ホテルや旅館などの2次避難所へスムーズに移動できるように、システムやオペレーションの方を変えていく必要がある。
柴田:「性善説」運用にしないことが非常に大事になる。ただ、地方に行けば行くほどというか、基本的には男性が議員など偉い立場にいる。そうなると、運営側に女性を入れるのが非常に難しいということが現実にはあると思う。
着替えや授乳を見られるのは本当に嫌だが、災害時だからといってこれを「勘違いだろう」「我慢しろ」という考えが通用してしまうと、当然、避難所に行きたくないと思ってしまう。避難しないとなると倒壊の危険がある家や車中泊の生活になってしまう。それは命に関わるので本末転倒だ。
神庭:そこは情報発信の仕方も気をつける必要がある。センセーショナルな伝え方によって「避難所は怖いところだ」というイメージだけが一人歩きし、避難をためらった結果、車中泊を選んでエコノミークラス症候群を発症したり、余震で家が倒壊して巻き込まれたり……という事態になっては元も子もない。
有事の避難所生活において、性被害がどれくらい増えているのか。平時と同じくらいであれば同じくらい注意する必要があるし、2倍に増えているなら2倍気を付けなければいけない。客観的・定量的なデータに基づいて判断し、改善策を講じていく必要がある。
柴田:正しく伝えていくことは非常に大事で、不安にさせないために伝えないというのも違う。
性暴力は特にだが、有事ではさらに声が上げにくいと思う。それも変えていかなければいけない。
神庭:その通りだと思う。また、女性だけでなく、男性・男児が性被害に遭う恐れもある。データをきちんと精査し、犯罪の発生リスクがどの程度なのかを見極めたうえで、冷静に情報発信していくことが求められている。
柴田:もちろん、被害に遭った人が責められることはあってはいけないが、複数人で行動する、声を掛け合うなど、大変な中だが心掛けてもらえたらと思う。
(『ABEMAヒルズ』より)
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