とある日曜日。東京・練馬区のグラウンドで試合を行うのは少年野球チーム「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」だ。
入団希望が絶えず現在は募集を停止しているが、人気の一因は2021年のチーム立ち上げからの理念「保護者の業務負担ゼロ」だ。
ここ数年、学童野球の競技人口が激減するなど、深刻化している子どもの「野球離れ」。背景のひとつに“保護者の負担の重さ”が挙げられる。
試合会場への子どもの送迎や練習の付き添い、さらには監督・コーチ陣へのお茶出しなど…。差はあるものの、こうした業務を保護者が半ばボランティアのような形で請け負っているチームも少なくない。
2023年6月、全日本軟式野球連盟はこうした状況を受け「学童チームへの保護者参加」についての考えを通知。
「父母会の設置やサポートを求めることは、各チームの任意とします。ただし各家庭の事情を考慮し強制や同調圧力のようなことが起こらないように配慮してください」(全日本軟式野球連盟のHPから一部抜粋)
各家庭の事情を考慮し、伝統にとらわれない時代の変化に応じたチーム運営の見直しなどを求めた。
「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」を立ち上げた、中桐悟さんは「今や多様な価値観があって、共働き家庭が多い中でスポーツだけに労力を注ぐことは難しい。保護者の負担だけでチームが成り立つ時代はもう終わった」と思いを語った。
そんな保護者の負担に依存しない、新しい価値観の野球チーム。練習は土日祝日のうち週1回4時間で早退も自由。これは「家族との時間も大事にしてほしい」という思いからだ。
この日はレベルに応じ、3班に分かれて練習を行った。指導者の指示のもと、練習に打ち込む子どもたち。このチームでは、コーチやトレーナーといったスタッフは全て外部に謝礼を支払い委託している。
練習の手伝いやお茶当番など、「保護者がしなければいけないこと」は一切ない。
「お茶当番も必要ない。みんなが水筒を持ってくればいいだけ」(中桐さん)
月謝は7300円と一般的なチームと比べやや高め。集まったお金はチーム運営の効率化にあてられている
決まりとして、コーチが怒声・罵声を浴びせることは禁止。結果は二の次であり、まずは野球を好きになってもらうのだ。
その一方で中桐さんは「子どもたちはめちゃめちゃ上手くなっている」と驚く。
野球漬けにさせていないため、例えば土曜日にチームで4時間練習、そして日曜は父親とキャッチボールや自主練をしたりと生まれた“余白”がプラスに作用しているのだ。
中桐さんは「保護者の負担に頼らず、社会全体で支えていくことがこれからの学童スポーツには求められる。このチームがひとつのモデルになれば」と話す。
「子どもの活動は社会の色々なプレイヤーでシェア・サポートしていくべき。そうしなければ持続できない。このチームのような取り組みが広がってくれたら嬉しい」
笹川スポーツ財団が行った、小学生のスポーツ活動における保護者の関与や負担感についての調査によると、負担感が重いものは「指導者や保護者の送迎=66.7%」「練習や大会等で指導者・保護者の食事や飲み物の用意=64.4%」「大会等で保護者や関係者が観戦する場所の確保=62.0%」(複数回答可)などが挙げられている。
他にも「他人の家の子どもの送迎は、万が一事故などがあった場合に責任を取れないから絶対にやりたくない」「コーチの弁当を用意する際に質素な弁当だとレギュラーから外されるのではと心配し、豪華なお弁当を用意する保護者がいて揉めたこともあった」という声も聞かれるなど、課題が山積している様子が伺える。
そして、保護者においては特に母親に負担が偏るという現状がある。
Schoo エバンジェリストの滝川麻衣子氏は「『保護者の業務負担ゼロ』は野球を続けたい子どもたちにこそ必要な仕組みなのでは」と指摘した。
「私の周囲の特に共働きの保護者たちは土日にはやるべき家事が溜まっており、ほぼ1日試合・練習に付き添うことが難しく、子どもたちに『野球じゃなくて別のスポーツじゃダメなの?』などと提案しているケースもある。7割が共働きという現状において、保護者のフルコミットを前提とした運営では厳しい部分がある。もちろん、休日も含め全力でサポートをしたいという親のためのチームがあってもいい。選択肢があることが重要だ」
さらに、「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」における7300円という月謝については「安くはないが、その費用によって付きっきりになる必要がなくなり、親は仕事に出たり、普段できなかった家のことができたりする。時間を自由に使える価値は大きい」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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