受験シーズンの今、話題となっているのが「東大卒の幸福度」。きっかけは卒業生によるnoteの記事だ。
「東大卒はその肩書にふさわしい進路選択を要求される」「東大合格が人生のピークで後は下り坂」「競争社会を経て人生に疲れ切っている」(note「東大卒の人生を考える会」から)
このようにつづられ、ネットにはさまざまな声があがっている。なぜ“日本一の高学歴”が幸せではないのか、当事者を交え『ABEMA Prime』で考えた。
■大手商社に就職後の幸福度は「下がるところまで下がった」
名門進学校から現役合格、東大経済学部卒の弥生氏。東大に入学すること、大手企業に入ることは「タスク」と認識。大手商社に就職後の幸福度は「下がるところまで下がって、5%」だったという。
「面白いと思ってゼロから作った企画が“東大の観点だ”と評価され、ミスすると“できるはずなのにやろうとしていない”と見られる。だんだん自分が駄目な人間みたいな感覚になり、幸福度が下がっていった」「受験をして一個一個アップしていくこと、東大に入ることはできて当たり前という中で、就職後に何がタスクか分からなくなった。課題をこなす一方、こなせないことが続きどんどん自己評価が下がっていった」
現役東大生で、株式会社カルペ・ディエム代表の西岡壱誠氏は「東大合格がタスクだと言う人は結構いて、完璧主義だと思う。法学部だと2、3年生の間に司法試験の予備試験を通っているのが当たり前感があるが、2年生で落ちた友達が鬱になってしまった。理由を聞いたら、“試験と呼ばれるものに人生で1回も落ちたことがなかったから”と。1回でもタスク処理ができないと、自分の人生に価値はないと思ってしまう人がいる」と指摘する。
これに対し、弥生氏は「そのとおりで、“お母さんが言うから”“周りの友達が目指しているから”“受験だし一番目指すよね”という感じだった。それに囚われず、入学後に起業したり、内定取り消しになったら違う仕事を自分ですればいい、みたいな考え方の人がすごく羨ましかった」と話した。
金沢大学教授、東京大学客員教授の金間大介氏はガードナーの多重知能理論を引き合いに、「8つの知能を人間は持っている、という理論。例えば、言語や論理、博物学的知能は受験で鍛えられ、弥生さんのおっしゃるタスクに近い。これを徹底的に鍛えるのが“受験脳”というふうに言われているものだ。しかし、社会に出ると対人的知能などが必要で、仕事はこれらがミックスされている。それを鍛えてこなかった背景がある中で、できなかったら“どうしたの?東大でしょ?”と言われてしまう。優秀と呼ばれている大学でも似た傾向にあるが、東大はマスコミで取り上げられる機会が多いので、よりそのギャップを強く感じる」との見方を示した。
■「日本は学歴が目立つ構造」、周囲のレッテル貼りも?
“東大卒”のレッテルとして、東大という肩書の強迫観念、周囲からのプレッシャー、貧弱な対人関係スキル、周囲に天才が多く人生初めての挫折、将来は官僚か医者という目で見られる、などが挙げられる。
弥生氏は「自分のタスクという考え方は、小さいときから変えられないものだった。それが染み付いていると気づき、“直せない、どうしよう”と苦しくなったときに、お母さんのせいだと責めた時期もある」と明かす。
一方、金間氏は新卒一括採用が関係していると指摘。「日本の学校は同い年で上がっていき、一括で入社するので、どこを上がってきたかという学歴がものすごく目立つ。海外だといろんな経過をしている人が多く、大学もその一つのプロセスと捉える」。
また、「“若者に日本を変えてもらおう”という大人の期待と圧がすごく高まっている。親目線で見ると安定した場所を歩んでほしいというところで、ギャップが出てきているわけだ。周りの大人は、圧をかけずにレッテルを剥がして、まずは見守ってみることが大事だ」とした。
弥生氏は現在、TikTokライバーとして活動している。もう一度受験するとしたら東大に入りたいか?と聞くと、「ぜひ入りたい」と答えた。
「東大に入る能力や容姿、生まれ持った環境、自分で得たコミュニケーション能力も、すべて自分が持っているギフト。それを次に繋げるチケットにできるかどうかだ。安定なんてそもそもない時代に、愛情で作ってあげようと思っても、どこかで違いに気づき、シフトしていかなければいけないと思う。TikTokライバーこそ競争社会の権化みたいなものだが、昔使っていた考え方や能力とは違うものを使い、それを楽しんでいる自分がいて、これがシフトなんだと。一義的なギフトの大きさで生きてきた段階だと、どうしても不幸になっていた」
(『ABEMA Prime』より)
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