兵庫県川西市の中学校で始まった“給食のふりかけ持参”が論争を呼んでいる。
遡ること2023年4月。川西市長と中学生との意見交換会で、生徒から給食の食べ残しを防ぐために「ふりかけ持参を認めてほしい」との要望があり、教育委員会は同年9月から条件付きでこれを認めた。具体的には各家庭から1人1袋、友達などへ渡さないことだという。
その後、教育委員会が実施したアンケートによると、ふりかけを「ほぼ毎日持ってきている」と答えた割合は7.4%、「ときどき・何度か」が同16.1%に対して「持ってきたことはない」は同77%で現状は多数を占めている。
一方で、川西市議会では反対の声があがっている。2023年9月、黒田美智市議は「給食は栄養バランスと衛生管理・食中毒などの事故が起こらないよう管理されている。家庭から違う食べ物を持って入ることがスムーズに行われてしまったことに危機感を持っている」と述べた。
また、9日の『ABEMA Prime』で、ひろゆき氏も「出された料理の味を変えるのはすごく失礼で下品。そのまま残さず食べるのが人としてあるべき姿だよねと教えるべき」と主張した。
ただ、Xでは「そんな怒ること?感謝を忘れなければ良いじゃん」「食品ロスが減るのなら歓迎したい」「ふりかけを下品なんて思ったことないよ」など賛成の声もあがっている。
給食でのふりかけ持参をめぐる是非は。『ABEMA Prime』では問題提起した黒田市議を招き考えた。
完全給食開始からまだ1年…“ふりかけ持参OK”の経緯
反対を訴える日本共産党の黒田市議は「お弁当のふりかけだったら問題にならなかった。ただ、川西市は2022年の9月1日から週5日の米飯、全員喫食の完全給食がスタートしたばかり。28品目のアレルギー除去・対応を4000食、給食センターで実現しているところはほぼないだろう。それくらい頑張ってスタートした経過がある」と説明。
川西市の中学校では、給食センター方式の完全給食を実施しており、調理や配送時も原因物質に触れないよう徹底されたアレルゲン不使用食が特徴だ。
黒田市議は「なぜ残食が出るのか。さまざまな知恵が子どもたちから出てきたはずだが、結局ふりかけを持ってくることに集約され、教育委員会がいろんな決め事を作り、保護者の責任で与えるかたちで通達を出している。始まって1年間の給食で残食があることが本当に悪いのか。専門家、調理師・栄養士、栄養教諭さんの意見やみんなの知恵をもらって解決すべき。アレルギー問題や感染防止等に尽力している現場があるので。そこの意見をあまり聞かずにスタートしたところも疑問」と述べた。
食塩相当量が「一番難しい」栄養士の見解は?
2013年に全国学校給食会甲子園で優勝、野菜を通じた食育の授業を実施する、管理栄養士の松丸奨氏は「学校給食法で、栄養士は『学校給食摂取基準』を守って献立を作ってくださいと書かれていて、栄養バランスを突き詰めて献立を作っている」と言及。
『学校給食摂取基準』では、児童・生徒1人当たりのエネルギー、たんぱく質、食塩相当量が定められている。
なかでも中学校では1食=2.5g以下と定められている食塩相当量が「一番難しい」といい、「献立の栄養価は決まっている。0.1g削るのがやっとなのに、ふりかけで塩分が0.3g増えると、あっという間にバランスが崩れる。栄養士としては疑問が残る。ただ、基準をよく見ると児童・生徒の生活や地域の実態に合わせて弾力的に活用するようにとも書かれている。それで教育委員会もOKしたのだろう」との見方を示した。
白米の食べ残しによる栄養バランスの偏りを指摘する声には、「給食には学校間格差がある。皆さんの中にも“自分はちょっと…”という人がいれば、“給食は最高だった”という人もいるだろう。私が携わる学校では、ふりかけがなくても完食できている子が多い。“ウチは無理だからふりかけで”と言うより、まず学校側でやれることを探すことが大事で栄養士も努力をすべき」と述べた。
食品ロスの実態と“食べ残しゼロ”実現した工夫
また、食品ロスの問題もある。環境省などの資料によると、小中高校給食の廃棄量は年間約6万5579トンに達し、児童・生徒1人当たり年間で7.1kgが廃棄されている計算になる。
松丸氏は「教育委員会には“何年何組のサラダが何g、ご飯が何g”など残食のデータも出す。それを栄養計算ソフトに入力した数値が、子どもが摂った栄養となる。理想的な献立ではなく、食べ残しを加味した数値が出るので“ああ全然栄養が摂れていない”とわかる。それも踏まえて反省し、もっと給食をおいしくしなければと改善している」と実態を明かした。
そのうえで「クラスや担任教師の雰囲気でも残食量は変わる。先生がおいしそうに食べていると集団心理でおいしそうに食べるし逆もある。食べ残しだらけで1年間過ごしたクラスと、しっかり食べられているクラスでは成長にも差が出てくると思う」と付け加えた。
塩分の上限など制約が多いなか、献立づくりの現場では“ふりかけ以外”の工夫も。
松丸氏は「子どもにとって“野菜のここが嫌だ”というポイントは全部無くしていく。青臭さを感じにくくするなら、ドレッシングにリンゴや玉ねぎ・にんじんのすりおろしを混ぜる。魚の骨は徹底的に柔らかく煮て出す、切りものも、子どもの口のサイズを考えて切るなどして残食を減らしている。考えられる対策はたくさんある」と述べた。
“ふりかけ持参”は生徒の提案 「残さず食べる」どう教育?
黒田市議は「川西市の小学校給食はほぼ残食ゼロだ。これは何十年も食育を進めてきたから。中学校給食が始まって1年だけで、“白米が残るから”と、ふりかけ持参を認めるより、情報を集めて議論していくことが大事ではないか」と改めて述べた。
これにタレントの田村淳は「生徒自身から“残食があるからふりかけをやってみたい”と提案があり、教育委員会が通したことに意義がある。次を考えるきっかけが生まれたのではないか」と指摘。
「子どもの頃、給食では月に数回ふりかけが出され、みんな楽しみにしていた。白米の楽しみ方を知ったし、子どもの頃はふりかけが好きだったが、大人になると白米だけの味わいもわかるようになった。自分自身で何を食べ、感じたか考える場を作ることが食育につながる」と異論を唱えた。
松丸氏は「食べ方も指導していくべき。おかずを先に全部食べてしまう子がいて、白米だけ残ると食べられないこともある。一緒に食べるか交互に口へ入れるなどを家庭でも学校でも教えないといけない。白米が余ってしまう問題は栄養士たちも考え、よりご飯に合うメニューや味付けを変えてみることも必要だろう」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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