日経平均株価は22日に最高値を更新するなど、株高や新NISAなどによって投資の関心が高まっているが、株価が気になりすぎて深刻なストレスを抱えてしまうケースも少なくないという。
「己の心を知り、投資ストレスに対応する方法」を明星大学心理学部教授で臨床心理士の藤井靖氏に聞いた。
━━投資に関連した相談には、どのようなものがあるのか?
「プライバシーに配慮して個人が特定されないような形で例を挙げる。例えば『株の売り買いのタイミングで揉めて、家族がギスギスする』『約定(条件が一致して、売買が成立すること)通知が来ていないのに、スマホが常に振動した気がする』『金銭感覚がおかしくなり、なぜかギャンブルにハマる』『テーマパークで株価ばかり見て恋人に怒られる』などがある。中には、家族の絶縁につながったり、依存度が高くなって日常生活の中で、食事中も入浴中も、トイレや性行為の時間でさえスマホを手放せず、四六時中ずっと株を見ている人もいる」
━━人は投資に失敗するとどんな状態になってしまうのか?
「典型的なパターンとしてはまず健康が悪化する。意外かもしれないが、投資に失敗した多くの方が太る傾向にある。なぜなら資金を減らした結果、食費を節約しようとして栄養バランスが偏ったり、安くて高カロリーのものを選ぶ場合があるからだ。また、喫煙や飲酒量も増えるという研究データもある。これらの影響で冷静に考えられなくなったり、イライラしやすくなったりして人間関係も悪化。人間関係が悪化すると、心身のコンディションも悪くなるというループにはまる。結果として自己肯定感が低下し、鬱っぽくなる人や、『もう全部何もかもやめて、どこか自分のことを誰も知らない場所に行きたい』などと話す人もいる」
━━自身の「投資の失敗」を認めることは困難なのだろうか?
「自分の行動によって資金を減らしてしまった、と負けを認めるのは難しい。競馬にハマった人が『今はまだJRAに貯金してるだけだ』などと嘯くように、『今はお金を預けているだけで、これから取り戻す』と思い続け、辛くなってくる」
━━深刻な状況に陥る前に、自分で自分を守る方法はあるのだろうか?
「やはりどこかの時点で『負けを認める』ことだ。ただ、かける時間や“心の中に占める割合”の1位が投資のままだと負のスパイラルから抜けられない。脱出するには、例えば自分の夢中になれるものや新しい活動など、人生の中で心を傾けられる対象を別に見つけることが効果的だ」
■「己の心のバイアスを知る」ことで判断のクセを把握
━━「自分の認知バイアスの傾向がわかるチャート」を作ってもらったが、これでどんなことがわかるのか?
「自分の行動や判断に影響を与える“物事の捉え方の偏り”がどんな場面で出やすいか、どんなものに影響を受けやすいかが分かる。そのため、『自分が投資するにあたって何に気を付けたらいいのか』がわかる」
「分類としてはタイプ1:マスメディアで得た情報がバイアスになるタイプはその名の通り。タイプ2:人から得た情報がバイアスになるタイプは例えば自分の信頼できる人、あるいはカリスマ投資家などの話をSNS等で聞いて影響を受けるとそれがバイアスになってしまう。タイプ4:バイアスと行動を切り離せるタイプは比較的他者の影響を受けにくく、偏った判断はしにくいと思われる」
━━注意したほうがいいタイプは?
「タイプ3:バイアスが自分の中にあるタイプだ。自分の中で思い込みや偏ったものの見方みたいなものが固定化されている性格特性を持った人は、投資の判断をする時に、自分の中の偏りが知らず知らずのうちに影響してしまう可能性がある。特にお金の話はあまり周囲にシェアしないため、この傾向があらわれてしまう」
━━チャート内には例えば「株で儲けて買い物がしたいか?」という問いがあるが、ここから何が分かるのか?
「『メンタルアカウンティング』と呼ばれるもので、投資で使うお金と生活に必要なお金を別の予算として分けて考えているか、ということ。この問いに『はい』と答えた(予算として分けていない)人は、株で負けた時に『生活に必要だからこれくらい稼がなくては』というような発想に陥り、冷静で合理的な判断が困難になりやすい」
━━「最高値更新という言葉に惹かれる」という問いからは何が分かるのか?
「『アンカリングバイアス』だ。アンカーは錨という意味だが、この問いに『はい』と答えた人は『最高値更新』というワードに引っ張られて、そこが基準になってしまう。そのため、『今の勢いだと最高値からもっと上がるかもしれない』、あるいは逆に『今最高値だからもう落ちるだけか』など狭い視野でしか考えられない。そうなると『実は他の先進諸外国は日本のバブル期後も右肩上がりで、日本は過去の数字に戻っただけ』などといった客観的な捉え方が出来にくくなってしまう」
(『ABEMAヒルズ』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側