女性が働きに出るケースが増えるなど生活に多様性が出る中、高齢出産が増えている。それとともに増加しているのが「出生前診断」だ。採血で染色体異常がわかるNIPTや、羊水検査など妊娠中に 胎児の発育や障害を調べることを指す。本来は、生まれる前に病気や異常を知り、心の準備や環境を整えるのが目的だが、一方で検査を受けたことで葛藤や後悔を抱える家族も多い。実際、陽性と診断され、中絶を選ぶ人は約9割にも及ぶ。『ABEMA Prime』では、不妊治療の末に妊娠も染色体異常がわかり、苦悩の末に中絶を選んだ当事者、専門医とともに出生前診断の在り方を考えた。
■ダウン症が確定、妊娠20週目で中絶を決断「産みたい気持ちは強かったが現実的に無理だった」
今から約4年前に出生前診断を受けた彩さん。当時38歳という年齢もあり、不妊治療の末に妊娠したが、「子どもを作ろうと思った時に、自分がもう高齢出産に該当するのと、高齢になると障害を持った子どもが生まれるリスクが高いという知識はあったので、夫とどうするか事前に話し合った上で、受けに行った」ところ、21番目の染色体に異常が見つかり、医師からダウン症が確定したと告げられた。
検査後、ダウン症のことを自分でも調べた。「心臓に疾患が出やすいとか、知的な遅れが出やすいとか。平均寿命も50歳から60歳くらいだと。医師からは『障害の程度も生まれてみないとわからない』と言われた。子どもが60歳まで生きた時、自分たちが亡くなった後、残された子どもはどうやって生きていけるのか。誰が面倒を見るのか。兄弟に頼むのか、もう1人産んでその子の面倒を見てもらうのか。それは間違いなく絶対に違うと思った。生涯、困らないだけの資産を残してあげられる自信もなかった。産みたいなという気持ちは本当に強かったけれど、やはり現実的なところを考えたら無理だなという気持ちがあった」と当時の状況を振り返った。
■薬を使って死産「崩れてしまいそう。怖くて抱き上げられなかったことに後悔」
妊娠12週を過ぎての中絶は、薬で人工的に陣痛を起こし 死産させるのが一般的。彩さんは20週目を迎えたところで決断、死産した。「検査を受けたこと自体や、中絶する決断をしたことに関しては、夫と十分に話し合って、また自分の中でもそういう気持ちを消化できるような時間も得ることができたので、選択自体にはそこまで深く後悔はしていない」。ただ別のところで後悔はあった。産んだ後に一晩、一緒に過ごす時間が持たれた時のことだ。「身長23センチ身長とすごく小さくて、393グラムという重さもすごく軽い。重たく感じるものではあったが、抱き上げたら壊れてしまいそうで。本当に崩れて壊れてしまいそうな気がして、抱き上げることができなかった。亡くなってはいるけれど、人の形をしている状態で抱っこできる瞬間があったにもかかわらず、怖くてそれができなかったのが後悔。もっと抱っこしてあげればよかった」。
■新型検査で陽性が出る割合は1.8%→中絶率は86.9%
出生前診断を受ける人は増えている。NIPT(新型出生前検査)は2013年度から2021年度の9年間で11万7241件を数える。2021年度だけ見ても、1万5577件だ。NIPTは、血液を採取し、3つの染色体疾患の可能性を調べるものだが、陽性が出る確率は1.8%(約50人に1人)。2022年3月まで実施分で、ダウン症の陽性が出たのは1282件だが、その後に妊娠を中断、つまり中絶に至ったのは86.9%だ。
出生前診断を専門とするFMC東京クリニックの中村靖院長は「それぞれ誰でも自分の人生の中で選択はある。誰しも、あの時こっちを選んでいたらというのは持っているはずで、これは出世前診断に限らない」と理解を求めた。検査については「出生前にわかる病気はものすごくたくさんある。同じ病名でも症状に幅があるのは事実。生まれる前に全部ぴったり当てられるかっていうと、必ずしもそうではない」とも述べた。
■「産む・産まない」の最終決定は本人ではなく医師
中絶を選択する上で、制度のハードルもある。1つは金額だ。中村氏は「価格の問題は難しい。本来は多くの人に受けていただくためには価格が下げられればいいが、日本の特殊な事情もある。そもそも海外だと(出生前診断に)お金を払わないようなこともあるが、日本ではそういう仕組みになっていない。日本では今、この検査の位置づけは受けたい人が自分でお金を出す。実は最初に始めた検査が研究目的で、最初は20万円ぐらいした。だんだん下がってきているようだが、検査会社からも『このぐらいの価格でやってください』と医療機関に言ってくる。医療機関もある程度マージンを乗せないとやっていけない」と説明した。
また、さらに大きいのが最終的に「産む・産まない」の決断をできるのが法律上、本人ではないことだ。「一番の課題はそこ。産む・産まないの決定権は、女性が主体的に決めているわけではない。基本的には日本には『堕胎罪』があり、中絶そのものは犯罪という扱い。母体保護法の中で母体保護法指定医が、中絶する要件に当てはまりますと判断した上で、中絶できるようになる人が出るので、つまり中絶を決定するのは医師」。いくら本人が望んだとしても、指定医が要件に当てはまらないとすれば、中絶はできないということだ。
これに、彩さんは「実際、私が産む時に担当をしてくださった病院の先生は、その方の主観だとは思うが、障害のある子どもを育てるのは本当に大変なことだと。育てていくのは本人、家族であり親なので、親の意見というのはすごく大事で、育てる側の意思が最も尊重されるべきであると言っていた」とも加えた。
■中絶に対するタブー視「そういう教育を受けた人も多い」障害を持つ子の受け入れは十分か
法律に「堕胎罪」もあり、中絶に対してタブー視される風潮はある。アメリカでも州によっては中絶ができないところもある。中村氏は「やはり中絶は罪、中絶することはよくないことだという教育を受けた人も多いと思うし、そういう認識が浸透している感覚はある。根本にあるのは母体保護法。そのあたりの作りをどうするか、議論がもっと積極的に進んでいくべきなんじゃないか」と指摘した。
またリディラバ代表の安部敏樹氏は、ダウン症の子どもたちが置かれる社会環境について考えた。「当然ながらこの診断が今1万5000件のものが、やがて15万件になり、30万件になり、60万件以上になっていくと、生まれてくる子のうち、ダウン症の子の総数が減ってくる。それ自体が社会にどういう影響を及ぼすのか、我々は真剣に向き合わないといけない。ダウン症の子が減れば減るほど、ダウン症に対する社会全体の理解が進まなくなっていくし、障害を持った子たちにとって、生きづらい世の中になる可能性もある」と語った。さらに「養子縁組もいろいろ変わってきた中、アメリカなどでは障害を持った子に対して『エンジェルじゃないか。なぜこの子たちを引き受けないんだ』と、障害を持った子をしっかり愛して育てていく環境が成熟している。こういうものがあって初めて(産む・産まないを)選ぶ話が成立する。日本は障害を持った子だと養子縁組を見つけづらい実態がある。現状を見ていくと、まだその準備がこの社会にできているのかわからない」とも述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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