パリ五輪は、日本代表選手たちが海外開催最多の45個のメダルを獲得し沸いたが、バスケットボールや柔道などでは「誤審」騒動が起きた。「AI審判の導入」の関心が高まる中、AIと人間の関係などを研究する社会学者の塚越健司氏は、「最近のスポーツは、技の精度が高く、速くなり、人間の目で追いつくのは難しくなった。審判の負担を減らす意味でも、AI導入は求められる」と語る。
【映像】一瞬の1センチも見逃さない!高性能「AI審判」が検知した瞬間
実際に一部競技で導入が進められている一方で、元プロ野球審判員の坂井遼太郎氏は「入れることには賛成」としつつ、「テクノロジーがしっかりしないと、逆に良くない方向へ行ってしまうこともある。慎重に予算・期間をかけて、しっかりしたものを導入するのが大前提」と懸念を示す。実際に坂井氏の判定が、テックにより誤審になった過去もある。
パリ五輪では、バスケットボール男子で「勝利目前、接触してないように見えたがファウルに」、柔道男子で「審判が『待て』を宣告も、首の絞め技を続け相手選手は失神」、柔道女子で「イタリアの選手が準決勝と3位決定戦で、同じ審判から3つの指導を受け反則負け」といった誤審騒動が起きた。スポーツ判定に、どこまでテクノロジーを導入すべきなのか。『ABEMA Prime』では塚越氏、坂井氏と考えた。
■高まる選手の技術「人間審判」が目で判断するのは限界か
坂井氏は「映像が発達するなか、“誤審”とフィーチャーされる」と分析しつつ、「五輪の審判も、おそらくアマチュアだ。プロではない審判に、どこまで求めるかの問題がある」と指摘する。
塚越氏はAI審判を求める理由として、「SNSのアルゴリズムで、刺激的な文章が勧められるようになっている」ことを挙げる。「Xはここ半年で、アルゴリズムが変更され、過激で人が見る投稿は、よりインプレッションが集まるようになっている。誤審も『ひどい』の声が増えるため、AI審判があった方がいい」。加えて、「体操など『人間では無理』と思われるほど選手のレベルが高くなっていて、人間の審判では追いつかない部分がある」ことも背景にある。
サッカー好きの「EXIT」りんたろー。は、「テックがあれば『マラドーナの神の手』は生まれてなかったが、逆にテックがあったからこそ『三苫の1ミリ』が生まれた」と、時代による変化を語る。「パリ五輪では、テックが進化しすぎたせいで、細谷選手が『スパイクの先が出ていたからオフサイド』と反則になって敗戦した。選手が態度や言動で非難を浴びる時代に、人間はこの判定を背負えないのではないか」と語った。
「EXIT」兼近大樹は、「『審判が絶対』とされる時代に、テックは要らなかった」と指摘しつつ、「ゲームは審判が決めるもので、そこに文句を言う意味が分からなかった。しかし、今は無法地帯になっていて、そのうち審判をやりたい人は居なくなる」と予想する。
スポーツ分野でのテック活用には、50年以上の歴史がある。1969年に大相撲が、判断の参考にビデオ検証を導入、これが「世界初説」もある。サッカーでは2012年からゴールかどうかの自動判定が行われ、2018には得点・PK・退場など重大な事象のビデオ検証が始まった。テニスでは2021年から、ボールのイン・アウトを自動判定(全米OP)することで線審が不要となり、2025年から完全移行する予定だ。
■海外のプロ野球界でも「AI審判」が試験導入中
野球でもテクノロジー判定が用いられつつある。米MLBでは2008年、日本プロ野球では2010年、本塁打限定で審判が必要とした時のみに導入。MLBで2014年、日本で2018年には、監督が判定に異議を唱える場合にビデオ判定を要求可能となった。2021年には米マイナーリーグで「ストライクorボール」の判定にロボット審判が使われ、メジャーでも検討されている。
AIと人間の判定がわかれて不満が生じる恐れもあるが、パックンは、「明らかにストライクなのに『ボール』と言っている審判に対する不満の方が、試合を壊している。10年後には、ストライク判定は100%機械でやっているだろう」と予想する。
米マイナーリーグでの実験では、「AI判定をそのまま審判員がジャッジする」タイプと、「審判員がジャッジした上で、不服の時だけ“チャレンジ”する」形の2パターンがあったが、「採用されたのは、チャレンジシステム。AI判定にすると、野球の競技自体が変わってきてしまう」と坂井氏が説明する。「ストライクやファウル、アウト・セーフのタイミングは、テクノロジーを導入した方が正確になるが、状況の判断はまだ難しい」。
■「AI審判」の苦手分野
『ABEMA Prime』では、判定へのスポーツテック導入について、YouTubeアンケートを行った(回答者数1万人)。結果は「全てAI」23%、「審判補助として使うべき」67%、「リクエストのようにチームが希望したら」7%、「人間審判だけ」3%となった。全てAI派からは「審判のバイアスで判定が変わってしまうなら、全てAIの方が良い」との反応が、人間審判派からは「人のプレイを人が判断するので良いのでは」との意見が出た。
AIにも苦手な判定はある。スポーツAI研究者の藤井慶輔氏によると、芸術点のある競技や、柔道などのように常に接触している競技、サッカーなど少し接触でオーバーリアクション(演技)をして倒れた時には判断が難しい。
兼近は「テクノロジーが追いつくのか」と心配する。「野球の場合、すっぽ抜けた球なら、頭部近くをかすめても、危険球退場にはならないが、AIは『狙ったかどうか』といった人間の感情を判断できず、一撃で危険球退場になるのではないか」と述べた。
塚越氏は「AIにも得意と苦手がある。競技ごとに技術向上に合わせて、毎年ルールが少しずつ変わっている中で、夢のようなシステムが、すぐできるわけではない」とみている。
■なくならない「人間審判」の役割は「責任を取ること」
AIと人間が住み分ける未来も考えられる中、「AI審判のレベルが上がるなかで、人間にできるのは『責任を取ること』だ」と断言する。「人間の耳にAIが『たぶんストライクだ』と言って、人間もそう思えば、ストライクと判断する。間違えていれば、人間の責任で『ボール』と言う。最終的な責任は人間が取らないと、誰も納得できない」と、人間審判の意義を伝えた。
そのうえで「あらゆる技術は30年ぐらいたつと当たり前になる。映画も『映像に残すなんて人倫にもとる』と言われたが、今は普通になっている。技術も慣れれば受容するようになる。30年後の野球は、今の私たちと同じ感覚ではない。『良くも悪くも変わるものだ』という視点が重要だ」と強調した。
(『ABEMA Prime』より)
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