パリオリンピック・柔道女子57キロ級でカナダ代表として金メダルを獲得した長野県塩尻市出身の出口クリスタ選手。
SNSでは鍛え上げられた筋肉美も話題になるなど、強い女性としての姿が印象的だが、実はオリンピック出場が危ぶまれる“あるリスク”を抱えていた。
「生理痛が重くてピルを飲んでいたが血栓ができてしまって(ピルが)飲めなくなったので(過多月経の治療などに使われる)ミレーナを入れた。その際に、子宮頸がんのチェックをしたところ、『高度異形成』の一歩手前であることが発覚した。それが去年の夏頃だ」(出口選手)
子宮の正常な細胞が変化し、子宮頸がんに進行する可能性がある「異形成」。自覚症状はなく、出口選手はリスクの高い高度異形成の一歩手前であることが、オリンピックの代表選考を迎える時期に発覚したのだ。
カナダ国籍を選択し目指した東京オリンピックはあと一歩のところで代表の座に手が届かず。そして再びパリオリンピックを目指す中での異変だった。
「もし手術が必要になったら競技をどれくらい離れなければいけないのか。命にも関わる、競技を続けられないかもしれない、オリンピックは無理かもしれないという不安から先生の前で泣いてしまった」(出口選手)
HPVワクチンも接種済で、定期的な検診を欠かさなかった出口選手。それにもかかわらず異形成に至ったのはなぜなのか?
Inaba Clinicの稲葉可奈子院長はHPVワクチンの接種の有効性について「子宮頸がんの原因になるHPVのタイプは全部で15種類程度ある。出口さんが(高校生の時に)接種した2価か4価のワクチンでは全体の6割を占める16型と18型を防ぐことができる」と説明。
しかしワクチンでは防げないウイルスのタイプもあるため、2年ごとの健診が推奨されている。稲葉医師も「中等度や軽度の異形成のさらに前の段階で見つけることができるわけではない。検診をちゃんと受けていたからこそ、この段階で見つけることができたのだ」と検診の重要性を指摘。
さらに、現在定期接種でも接種可能となっている9価のワクチンは、子宮頸がんの原因のおよそ9割を防ぐことができるため、ワクチン接種と定期検診の両方を受けることを稲葉医師は強く推奨している。
異形成の発覚後、3カ月おきに病院に通っている出口選手。オリンピック直前の検査では異形成の段階が1つ下がったというが、引き続き経過を見ている。
異形成と診断されたことについては、今年4月にSNSで公表。ワクチン接種と検診の重要性を発信した。
「Xに載せた時に自分の中で踏ん切りがついた。これは発信していったほうがいいなと。負けられない試合も続いていたので、1〜2カ月すぎた頃から少しずつ、『なったものは仕方ないから頑張ろう』という気持ちになれた」(出口選手)
出口選手がこうした発信をすることで、後輩の中には実際に検診に行く人も現れたという。
自分の体の異変と向き合いながら、激しい代表権争い、そしてオリンピックの試合を勝ち進み、見事金メダルをつかみ取った出口選手。いま、あらためて思うことは…
「ワクチンを打っていても子宮頸がんになる人はいるが、その確率を下がることはできる。(打つかどうかは)その人の意思だが、経験は発信していきたい。異形成と診断された当初は公表できるような気持ちでもなく、『子どもができなくなるのでは』『流産の可能性が高くなるかな』など、漠然とした不安があった。ただ、もうなるようにしかならないので、今は検診を受けることと健康的な生活を送ることが大事だと思っている」
【キャッチアップ接種について】
ワクチン接種の積極的勧奨が停止していた期間に定期接種対象だった女性に接種の機会を確保するために実施
対象:1997年度〜2007年度生まれ
期間:2025年3月まで
※標準的には6カ月で3回接種となるため、9月中に初回接種することが望ましい。
9月中に初回を打てなかった場合について、稲葉医師は「自治体によっては少し短縮したスケジュールでも助成可能なところもある。また、1回でも2回でも、打つことで接種の効果はある程度期待できる」と説明している。また、自費にはなるが、期間内に打てなかった回数分を追加で接種する選択もある。
積極的勧奨が中止される原因ともなったのは、「手足が動かなくなる」などの副反応疑いの報告だが、その後の研究で接種していない同年代の人でも同じぐらいの頻度で同様の症状が見られることが確認されており、厚労省は「ワクチン接種との因果関係があるという証明はされていない」としている。
(『ABEMAヒルズ』より)
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