SNSで知り合った相手との予期せぬ妊娠
厚生労働省によると、予期せぬ妊娠や経済的困窮など出産前から支援が特に必要な「特定妊婦」は、2020年までの10年間で10倍に増加。全国に57カ所ある相談窓口「妊娠SOS」が受け皿になっている。
10代で妊娠・ゆづきさん(仮名)
10代で妊娠したゆづきさん(仮名)は、SNSで知り合った交際相手と妊娠発覚前にけんか別れをしたという。「連絡先も消してしまったので、本当に頭が真っ白になった」。
「キミノトナリ」に寄せられた相談者のうち、最も多いのが「パートナー」で64パーセント、次いで「夫」、「アプリ・SNSで知り合った人」と続く。年代別では、10代または学生が49パーセント、20代が30パーセントを占める。
ゆづきさんも頼る人はおらず、エコー検査で赤ちゃんを見て産みたい気持ちがあったが、1人で育てることを思うと産まない選択も考えたという。「自分にはほぼ何もない状態だったので、堕ろすしかないと思っていた。ずっと泣いていた」と語った。
その後、「キミノトナリ」の支援を受け産むことを決意し、女の子を出産した。「最近、洗濯物を干していたら、娘が、『どーじょどーじょ」って言いながら、洗濯物を一つ一つ手渡ししてくれて。(子どもは)本当に宝。産むことを決断したのは間違っていなかったと思います」。
望まない妊娠を防ぐために必要な“性教育”
出前授業を行う東田さん
望まぬ妊娠を防ぐためには、若い世代への性教育が大切だ。東田さんは「例えば『コンドームが破れちゃっていた』『彼に無理やりやられた』といった場合に、アフターピルを72時間以内に飲むと妊娠をかなりの確率で防ぐことができる」と話す。
東田さんは、県内の中学校や高校で年に20回ほど出前授業を行っている。「(初期中絶は)台の上で足を広げて膣に物を突っ込んで、そこで出す手術ですから、ものすごく心理的な負担は大きいというのは男の子には覚えておいてほしい」と生徒たちに訴える。
「中期になってしまうともっと大変。これは出産と同じことをする。人工的に陣痛を起こして流産させる。22週を超えてしまうと絶対に産むしかない。予期しない形で妊娠させないことがものすごく大事」(東田さん)
若年妊婦の葛藤と現実
東田さんたちが支援している、妊娠9カ月のつむぎさんと突然、連絡が取れなくなってしまった。ようやく連絡が取れたつむぎさんによると、出産が近付くにつれ、不安が大きくなったと言う。東田さんたちは、何も言わずそっと寄り添う。
出産予定日の2週間前、つむぎさんは「生まれてみたら、(考えが)変わるという方もいると聞いていて、今の段階では養子に出そうかなと思っています」と語っていた。
出産後のつむぎさん
出産入院の前日、自宅で破水した後、1人で病院に駆け込んでいた。そして、およそ2800グラムの赤ちゃんを出産した。出産後、赤ちゃんを見てどう思うか、東田さんに感想を問われ「何でこんなに可愛いんだろう」と話した。
養子に出す意思に変わりはないか聞かれると「見ていたいなとは…」「可愛いだけじゃいけないしなって思う」「揺らいでないかと言われると、ちょっと難しいですね」と述べた。
1週間後、区役所に出生届を提出した。赤ちゃんの名前は自分で決めた。養子先は決まっていたが、自分で育てる未来を強く考え始めたつむぎさんは、いったん断ることを決めた。自立した生活ができるまで、赤ちゃんは公的な施設で暮らすという。
つむぎさんは「出産前に比べたら、元気な気がします。明るい気持ち。1人なので、大変ではあるんですけど、まずは楽しみです」と語っていたが、3カ月後、連絡が途絶えてしまった。
「何かあったらすがれば良い」助けを求めることが重要
ゆうこさんの第1子が3歳に
東田さんが初めて出産を支援したゆうこさんは、夫と復縁し、去年夏に第2子を出産した。第1子は3歳になっていた。今は、夫婦で支えあって子育てをしている。
東田さんは「本当に感無量ですよね。ご家族がそろっているところを見ることができると思わなかったので、本当にうれしい」と語った。
「子どもの成長を見るのが、やっぱり生きがいじゃないですけど、すごく充実した毎日を送れていますね。1人で抱え込まないで、誰かに頼るということが一番だと思います。必ず助けてくれる人がいますし、いると思います」(ゆうこさん)
「一緒に立ち会って、サポートしてあげるべきだった。申し訳ないと思っています。過去の話は今になって聞くようになっていて、サポートしていただいて子どもも健康で産めたので、すごく感謝しきれない言葉でいっぱいです」(ゆうこさんの夫)
「キミノトナリ」代表の東田美香さん
東田さんは、孤独に悩み続ける妊婦たちに向けて「私よく、階段をものすごいスピードで下りるんですけど、手すりがあるから、安心して下りているわけですよね。私たちは、そういう役割だと思っている。何かあったらすがれば良い、心のどこかに思っていてくれるだけで、その人は自分自身の力で進んでいけると思う。『ずっとそばにいるよ』という人は必ずいると思うので、連絡してみてほしい」と強調した。
(東日本放送制作 テレメンタリー『まさか私が… 孤立する妊婦たち』より)