現場の“熱量”や日本メディア報道体制について、当時いち早く韓国の国会で取材をした毎日新聞ソウル支局の日下部元美記者に聞いた。
国会周辺に市民が集まり警察官に詰め寄るような場面も報道されたが“現場の熱量”はどうだったのか?
兵士が“投入の目的”を分かっていない?
日下部記者は「目の前で激しいもみ合いを見たが、“本気度”は低く感じた。軍隊が柵を越えて敷地に入ろうとしたのだが、それを見た市民たちが下ろそうとしていた。一部の兵士は柵を越えて行ったが、一部の下ろされた兵士は断念して撤収していった。また、別の記者は市民に『あんた何してんのよ?』などと問われた兵士が『なんかよく分かりません』などと答えた姿を見たという。兵士自身もなぜ自分たちがここに投入されているのかよく分かっていないようだった」と説明した。
日本の記者はSNSなどでリアルタイムに緊迫感のある動画や記事を届けていたがその一方でNHKなど各局が緊急特番を放送しなかったことに対する不満の声がある。
この声に対し、元毎日新聞記者でノンフィクションライターの石戸諭氏は「日本の報道体制は極めて充実していた」と評価した。
「戒厳令が深夜に出されたにもかかわらず、朝日新聞も毎日新聞も翌日の一面に記事を入れていた。加えて、日下部さんのように記者たちが現場に行って紙面に出せないような動画などもアップするなど、速報体制も機能していた。たしかにテレビで特番はなかったかもしれないが新聞各社を見ると情報は適切に上がっており、ベテラン記者の背景解説もSNSなどでかなり早かった。そもそも『戒厳令』が宣布されたのは日本の深夜帯であり、報道機関でも働き方改革などで人が薄い時間帯でもあった。昼間の時間帯だった海外とは状況が異なる。マスメディア全体でみるとかなり充実していた方だと思う」
一方、“戒厳令騒動”の中で「韓国の民主主義は機能していたのか」という議論も起こっている。
これについて日下部記者は「民主主義には『市民文化』や『制度』など多様な観点があるため評価は難しい。韓国の市民文化における『自分たちで政治を変える』という点においては非常に成熟している部分があるのは間違いないが、これをもって韓国の民主主義はスゴイっていうのはちょっとモヤつく。というのは、『そうせざるを得なかったから』とも言えるからだ。長く続いた独裁政権時代を超えるためにたくさんの血が流れ、それに伴った非常に中央集権的な大統領制が今も残っているという実態があり、日本の人からするとびっくりするような政策の介入が起きることを韓国の人たちは割と普通に見ている。そのため市民の方々がこうせざるを得ない状況がありこの点も踏まえて考えるべきだろう」と解説した。
石戸氏は日下部氏に同意しつつ「韓国は進歩派と保守派の分断がかなり深刻になっている。つまり、常に不安定な構造にあるということだ。そこは日本とは異なる。政権交代は起きるが、だからといって韓国の民主主義はすごいと安易に礼賛だけすればいいわけではない」と指摘。
これを受けて日下部氏は「そもそもが軍事政権の流れと、それに対抗した人達と互いにアンチテーゼの構造になっている。混ざり合うことのない構造の中、その延長線上で尹大統領は共に民主党や野党を“従北勢力”、つまり北朝鮮の影響力のある反国家勢力であると言って反国家勢力であると言っている。これは深刻な分断でこれまでも政権が変わるたびに政治家が逮捕されたり裁判にかけられたりするようなことがずっと繰り返されている。政権が変わるたびに政策や外交が180度変わってしまうため、長期的な政策を立てづらい状況にある」と説明した。
同じ高校出身の3人が「戒厳令宣布」を決めた?
そもそも、「戒厳令」はなぜ・どのような経緯で宣布されたのか?
日下部記者は「国防省は(5日に辞任した)金竜顕前国防大臣が提案したと話している。実は金前国防相も警察を管理している行政安全大臣も尹大統領と同じ高校出身であり、3人の中で話を進めたのではという報道もあるが、彼らが何を考えていたのか、まだ全容が見えない」と説明した。
尹大統領の弾劾訴追案は国会に提出されており、7日に採決される可能性がある。
(『ABEMAヒルズ』より)
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