大阪府茨木市にある河川敷。数年前までこの近くに暮らしていた岡真裕美さんには今も忘れられない出来事がある。
「溺れていた子どもを助けようとして夫が川の中に入って、助けたうちの1人と夫が亡くなった」(岡真裕美さん)
2012年、川遊び中に溺れた3人の小中学生。通りがかりにその様子を見つけた岡さんの夫・隆司さんは、川に飛び込んだ。その結果、少年2人は助かったが、男子中学生と隆司さんが命を落とした。事故は当時、大きく報じられたが、その内容に岡さんは、夫の死が"美談報道”として消費されたと感じている。
本来、伝えるべき防止策や救助のあり方ではなく、幼い子を持つ父親が命をかけて他人の子どもを助けた。その行動を讃える報道ばかりだった。さらに、記者の多くは近隣住民からも美談にするためのネタを探していたという。
なぜ事故が起きたのか…気持ちを整理するため、子どもの安全について学び、現在は安全行動学を研究する道へ進んだ岡さん。事故防止や安全教育に関する、講演や啓発活動を行っている。しかし、今度は夫の死を乗り越えた研究者という、その“人となり”を讃える妻をも"美談”として語られる苦悩を抱えている。
"美談報道”に異議を唱える当事者は他にも…。阿部任さん(30)は、高校1年生の時、宮城県石巻市にある祖母の家にいたところ、 東日本大震災が発生した。防災無線で津波警報を知るも、油断から避難を怠り家ごと津波で流された。阿部さんと祖母の2人は部屋にあった食料で食い繋ぎ、9日後に救出。その救出劇は大きく報じられたが、避難を怠った自分を“奇跡”という言葉を用いて、英雄視する多くの報道に悩まされ続けた。
なぜ、メディアは"美談”にしたがるのか。美談にされた本人や家族はどんな報道を求めているのか。当事者と共に『ABEMA Prime』で考えた。
■夫の死が美談として消化された岡真裕美さん
