■病の進行、家族と過ごす大切な時間
誉君と出会って4年、この間に三男・柚稀君が誕生した。この日は、誉君の10歳の誕生日で、年齢が2桁になった。「成長」を喜びながらも「老いていくこと」に不安を感じる年齢だ。
誉君、10歳の誕生日
この頃から、壁に年齢を貼るようになった富美さん。家族で誕生日を迎えられた喜びと「来年も…」という願いからだ。しかし病は、誉君から少しずついろいろなことを奪っていった。「口から食べること」がだんだんできなくなっていき、胃に穴を開け、管を通して、流動食を入れる「胃ろう」で栄養を補っていた。
そして、気になる症状も出てきていた。「自分で家の中を移動していたら、壁にぶつかったり動けなくなって、泣くことが増えてきた」(富美さん)
蒼心君と誉君
2歳下の弟・蒼心君は、お兄ちゃんの病気を理解できるようになった。「走る?」「冒険だ!行くぞ!」と蒼心君が誉君をおんぶして移動しながら2人で遊ぶ姿も。「悲しいことはね、長生きできないこととか。分からないけど、長生きするかもしれないけど…」(蒼心君)
誉君が13歳の誕生日を迎える頃には、「見ること」「歩くこと」がほとんどできなくなっていた。弟の柚稀君は、お祝い事のたびにピアノを演奏する。その音色を聞いて誉君は笑顔を見せていた。
年を重ねて、失ったこと、失われないこと、その狭間で懸命に生きる誉君。「(病院の)先生にもいろいろなことを失っていくと思うけど、目が見えていた時の“思い出”というのは、必ずいろいろなことを失った時の力になると言われて…」(富美さん)
キャンプ場での誉君
たくさんの「楽しい思い出」を作ろうと決めた両親は、家族旅行の計画を立てた。家族と一緒にキャンプ場を訪れた誉君は楽しそうな表情を見せていた。
「見えないから、どこまで進んで良いかとか、どこまでがシートの上で、どこからが地面かというのは手で触ってしか分からないので。不自由にはなっているけど、耳からの刺激といろいろ見つけて楽しんでいる」(富美さん)
■余命1年…母の思い「わが子は誉れ」


