あれだけ激しかった戦闘も、終わりが近づくにつれ、静けさすら感じられた。「機動戦士ガンダム」最終話では、ガンダムとジオングが相撃ちに倒れ、戦争兵器としての役目を終えた。そしてガンダムは、アイキャッチからもその姿が消える。なんとも寂しい演出だったが、物語後半のスタートもBGMなどはなく、銃撃音や爆音だけが響くというものだった。
最終話の前半、アムロ・レイ(CV:古谷徹)とシャア・アズナブル(CV:池田秀一)は激闘を繰り広げた。ガンダムはジオングの胴体を破壊するも、自身の頭部を撃ち抜かれた。ジオングは胴体から切り離した頭部だけとなり、ア・バオア・クー内部へと逃走。しかし、アムロは「まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ!」と、胴体だけで後を追った。
アムロはシャアが死角から待ち構えていることを察知すると、コックピットを降り、ガンダムを自走させた。そして吹き抜けに出た瞬間、上空に向けてビームライフルを発射。同時にジオングも反撃のビーム砲を放ち、結果は相撃ちとなる。ガンダムは崩れるように倒れ、その役目を終えた。これが、有名な「ラストシューティング」である。
ガンダムを失ったものの、本当の敵はシャアではないことを理解していたアムロは、ザビ家の頭領を倒すという当初の目標に切り替えようとしていた。しかし、「その力、ララァが与えてくれたかもしれんのだ。ありがたく思うんだな」と、アムロの前に再びシャアが立ちはだかった。シャアはララァ・スンのニュータイプとしての覚醒は戦争によるものだったと主張し、危険な存在であるアムロを抹殺しようと向かってきた。
はじめこそ銃撃戦が展開されたが、そこからシャアは、自分が有利に戦いを進められるようアムロを奥の部屋に誘い込むと、サーベル戦へと持ち込んだ。サーベルが交わる乾いた音と、互いの主張だけが響く戦いは、爆音が轟くモビルスーツ戦とは打って変わって静寂の戦いだった。
2人に導かれるように、セイラ・マス(CV:井上瑤)もその場に辿り着いた。セイラは懸命に2人の戦いを止めようとしたがその声は届かず、戦いは爆風に巻き込まれるまで続いた。
爆風によって戦闘が中断すると、シャアはアムロに「私の同志になれ。ララァも喜ぶ」と誘い始めた。倒せないのであれば味方にして利用しようという思惑だったのかもしれないが、アムロはこれに同調することはなく拒否する。再び戦闘が始まるかと思われた瞬間、またもや爆風が2人を引き裂き、それきり彼らが相まみえることはなかった。
ここで最終話前半は終わり、物語を後半につなぐアイキャッチが挟まれた。しかし、そこにはこれまでの放送ではあったガンダムの姿はなかった。そして始まった後半は、前述の通り派手さの一切ないものだった。それは物語の終わりを実感させる見事な演出だった。
アニメ「機動戦士ガンダム」は1979年4月から1980年1月まで放送されたサンライズ制作のロボットアニメで、富野由悠季監督が手掛けた作品。“リアルロボットアニメ”という新ジャンルを開拓し、以後のアニメに多大な影響を与えた。放送当時の視聴率は振るわなかったものの、再放送や劇場版の公開で人気が急上昇すると、「ガンプラ」ブームも生まれるなど空前のヒットに。現在に至るまで数多くのシリーズやスピンオフなどの派生作品が制作され、高い人気を誇る。
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