■母親の無理心中に巻き込まれかけた女性「冗談じゃない」
たとえ無理心中が未遂に終わっても、子どもの心に深いトラウマが植え付けられることもある。絵本『あの日の空の色』は、母親の無理心中に巻き込まれかけた女性が、自身の経験を元にした作品。著者で公認心理師のしのだあむりさん(50代)は、「ある朝、暗いうちに母から『パンダを見に行こう』と言われた。『保育園あるよ』と返したら、『今日は特別にお休みしていい』と優しい声で起こされて家を出た」と話す。
「駅に着くと『パンダはやめて、新幹線に乗りに行こう』となったが、どこに行くかもわからず、母の顔がこわばって、話しかけにくい雰囲気になった。電車を降りると、広い海があり、しばらくそこにいたが、電車に乗って帰った。覚えているのは、母が駅の電話で、怖い顔をしながら『帰っていいんですか』とつぶやいていたこと」
その日のことは、「夢にしてはリアルだが、なんだかよくわからない記憶」として残っていたが、高校時代に「あれは現実だったのか」と母親に聞いたという。すると、「『よく覚えてたね。あの時、私はあなたと一緒に海に飛び込んで、死のうと思っていた』と。あそこで私の人生が終わっていたかもしれない、友達と笑い転げた日々なども全てなかったかもしれないと、背筋がぞっとした。『生きててよかった』の一言に尽きる」。
ただ、母親の意図は「わからない」そうだ。「私が幼い頃、母は不安定だった。話を聞いた時、『私はそんなにつらかったの。でも、知らなかったでしょ?』と、ちょっと勝ち誇った感じで言われた。“冗談じゃない。勘弁して”という思いが強く、理由を探りたいとはならなかった」と振り返る。
しのださんは現在、3児(大学生・高校生)の母親だ。その立場から「子育ては思いどおりにいかないことが多く、メンタルに来る。私自身も今、子育て支援の仕事をしていて、母を責める気持ちもない。ただ、心中の事件は、あまりクローズアップされない。その後の報道で、親の貧困やDVなどの背景は語られても、子どもの気持ちは注目されていない」との懸念を示した。
■無理心中を防ぐには 支援の“すき間”という盲点も
