■無理心中を防ぐには 支援の“すき間”という盲点も

 こども家庭庁によると、2004年1月~2022年度で、児童虐待で亡くなった子どもの数は1655人、その内635人が心中による虐待で死亡した。635人の内433人は主たる加害者が「実母」(約7割)、120人は主たる加害者が「実父」(約2割)となっている。

心中による虐待死事例における“加害の特徴”
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 日本女子大学 社会福祉学科 非常勤講師の西岡弥生氏は、心中による虐待死事例には、多くの場合で事件が起こるまで、「加害者の親が子どもに危害を加えるといった目立った問題がない」「乳幼児健診をきちんと受けさせ保育所や学校に通わせている(周囲が気付けず危機を見過ごしてしまう可能性も)」「父親の不在や実家からのサポートがほぼない」といった“特徴”があると説明する。

 また、自身が見た経験から「生真面目な人が多い」そうだ。「関係者に聞き取りをしても、母子心中の場合、母親を悪く言う人はいなかった。日常生活で目立った問題はなく、虐待報告として上がらない。しかし、生活や夫婦関係の困難さから、精神的に不調をきたしていく。ほとんどの場合は、精神疾患が関係していると思われる」。

 さらに、現状の政策には、“支援のすき間”という盲点があるという。児童福祉法や児童虐待防止法における対応では、子どもの生命と安全を守ることを使命とする一方で、「親の自殺予防・防止対策」がないのが課題だと指摘する。

 西岡氏は「子どもを中心に据えた支援の枠組み」を課題として挙げる。例えば、児童相談所に相談・通告すると子ども最優先になるが、親はストレスと精神不安、喪失体験を得てしまうため、親に寄り添う「伴走支援」が不可欠となる。支援策としては、親が自分のことを安心して話せる「場」づくりや、これまでの「成功体験」を支援者が親と協働作業で掘り起こすことなどが考えられる。

 とくに「成功体験」については、「心中に巻き込まれる子どもは、比較的年齢が高いが、そこまで育てたのは親だ。親を『あなたがここまで頑張ってきた』と、きちんと言葉で認める。そういった関わりが増えていけば、かなり楽になるのではないか」と重要性を説いた。

 相談窓口としては現状、こども家庭庁が「親子のための相談LINE」を設置し、子どもや保護者などが相談できる(匿名での相談も可)。また、全国約5割の市区町村に設置された「こども家庭センター」でも、子どもや妊産婦、保護者が相談を受けられる。(『ABEMA Prime』より)

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