キッシンジャー氏は当時、大統領補佐官としてニクソン氏を陰で援護した。中国への電撃訪問も、彼の存在あってこそだと言われる。「性格が全く逆。沈着冷静な参謀役として、“計算不能なニクソン大統領”という親分をうまく利用して、外交を細かく進めていく。チームワークが確立されていた」(篠田氏)。
ベトナム戦争においては「交渉を進めながらも、米軍が劣勢になったりすると、ニクソン氏が怒り出して、やみくもな空爆を始めたりする。『片っ端から空爆してやる』というようなことを本当に決めてしまう」といった状況だったとして、「ニクソン氏が怒り、みんなが怖がる。キッシンジャー氏が『うちの親分、いま怒っているけれど、こうしたらうまく対応できる』という示唆を相手に与える」ような関係性が築かれていたと、篠田氏は解説する。
こうしたニクソン氏の「マッドマン・セオリー」を、トランプ氏は模倣しているのではと指摘されている。ではトランプ氏の言動は、天然なのか、それとも戦略なのか。中丸氏は「ズバリ戦略だ。不動産ビジネスで培った勝負事のセオリーをそのまま実践している」とみる。
篠田氏もまた、「トランプ大統領のように、自分が会社経営者であった、あるいは『自分はディール(取引)したい』と公言している人が、交渉に対する考え方を持っていないことはあり得ない。頭の中ですごく考えていると思うが、種明かしはしない」と推測する。
マッドマン・セオリーの副作用
