アメリカから“天才”が消える?
大学側は自然科学など政府の予算に依存している分野の予算を、人文学や社会科学系の予算に割り当てる動きもあり、大学全体が人員削減などに追い込まれている。こうした教育分野への大規模なコストカットや攻撃によって危惧されているのが、才能の流出だ。
前嶋教授は「若い研究者、才能ある人々は、自身を活かせる場所へ行きたいと考える。一つ言えることは、他の国に行って研究をするということだ。アメリカは移民の国であり、技術革新をする人々が国を大きくしてきた。教育を通じて成長するという、これまでのアメリカの成長パターンが揺らぎ始めている可能性がある」と警鐘を鳴らした。
琉球大学工学部の玉城絵美教授は、アメリカの有名大学が置かれている状況について次のように語る。
「アメリカの有名大学は、日本の一般的な大学に比べて非常に競争的な環境。その中で生き残っているのは、国際的に集められた本当に優秀な人材ばかり。その彼らがこのように追い詰められているというのは、考えにくい状況。アメリカの大学は学費が非常に高く、学生の学費や生活費の一部も教授が獲得した研究費で賄われることがある。教授は学生に対し、『給料は出せない』『優秀でなければ支援できない』と言うこともあり、学生は非常に厳しい環境にいる。各国から集まった優秀な人材の中でも、さらに教授に厳選された人たちが残っている状態。その彼らが研究を続けられなくなると、今度はアメリカ企業が困ってしまう」
玉城教授は、「アメリカの企業は、大学の中で育成された優秀な人材を企業も連携し、採用したり活用してきた。しかし、今回そのような人材がいなくなってしまうと、日本のように就職後に企業内で人材を育てなければならなくなり、アメリカ企業のコストは大幅に増加するだろう」と懸念を示した。
実際、ニューヨーク・タイムズは「アメリカから天才たちが消える」という記事を掲載した。
コンピューター処理技術におけるエネルギーを軽減する物質について研究していたクリスティン・グラムさんは、政府の予算削減により奨学金を獲得できる可能性は低いと指導教官から警告を受けた。また、あと6カ月で神経科学と行動学の博士号を取得予定だったフランシスカさんは、連邦政府の研究職を含むあらゆる職種の扉が一夜にして閉ざされてしまったと感じ、「もう会計士にでもなればいいのか」と落胆しているという。
「この方々は仕方なく、各国に散っていくしかないだろう。せっかくアメリカに集まることで、天才たちが交流し新しい価値を生み出せていたのに、アカデミアでの活動が難しくなると、彼らは各国に散らばり、次の研究場所として中国や日本などを探すことになると思う」と玉城教授は指摘する。

