宋美玄院長
【映像】地域により出産費用に大きな格差が!
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 現在進行中の出産費用「無償化」に向けた議論。出産負担を軽減するという目標は評価されているものの、その具体的な制度設計については課題も多く、医療現場からは懸念の声が上がっている。

【映像】地域により出産費用に大きな格差が!

 無償化にあたって、出産を医療保険の適用対象とし、自己負担を軽減する案が検討されている。この案について、産婦人科医の宋美玄院長は、次のように2つの懸念点を挙げている。

「全国一律で同じ値段というのが、地域性や物価、人件費の相場に見合っていないというのが一つ。もう一つは、今後、毎年出産できる人たちの人口がますます減り、お産も減ってくるが、単価を上げることができない(価格を決める裁量を奪われる)ため維持できないところがどんどん出てくる。その2点から、周産期医療の崩壊を招くのではないかと懸念されている」

 保険適用によって、収益が見合わなくなり、多くの病院が出産の取り扱いをやめてしまった場合に起こりうることとして、宋院長は「お産の空白地帯が今よりも多くなり、お産ができない自治体が増えるため、若い夫婦はそこに住めなくなる。その地域では、子どもが生まれないことになる」と述べた。

 現在、小さな総合病院や地域の産院が全国津々浦々にあり、日本は、周産期死亡率や母体死亡率が世界で一番低く、出産が安全な国とみられている。 ただ、もし、今回の制度改正により保険適用になると、「日本での出産は安全」という信頼は揺らいでしまう可能性もあると宋院長は語る。

「周産期は、例えば、緊急帝王切開や赤ちゃんの蘇生、出血対応へのバックアップ体制を365日24時間取らないといけない。(保険適用で)予算がなく、病院に常駐できなくなると1分1秒を争うような緊急事態の場合、命に関わる。薄い医療体制になって、助からなくなってしまったというようなことが、現実に起こっていくと思う」

 さらに、宋院長は、病院の個室代など、保険がきかない部分もあると指摘したうえで、無償化の方法としては、保険適用よりも一時金を上げていくべきだと提案する。

「保険医療制度を使うよりは、今の一時金をしっかり試算し、手厚くしていく必要があると思う。産院の統廃合や集約化を計画的に行って、大体いくらぐらい維持するのに必要なお金がかかって、一時金を一人当たりいくら上げれば、妊婦さんの手元に残るなという試算を根拠を持って示して、一時金を上げていくべきだと思う。 一度崩壊したら医療は戻らないため、よく考えて制度を設計してもらいたいと思う」

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