長谷川有朋社長
【映像】職人の寿司を楽しむ海外の人たち
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 農業従事者が減少する中、小規模農家の保護だけでなく、積極的にコメを生産する人々への支援が必要だと訴えた小泉農林水産大臣。そのカギとなるのが、海外への輸出である。

【映像】職人の寿司を楽しむ海外の人たち

 2016年からコメの輸出を始めた商社「百笑市場」の長谷川社長も、生産者が生き残る術として海外に打って出るしかない状況だったと振り返る。

「国内の市場だけでは今後、継続して営農が続けられないと考えていた。コメは作り続けたいが、生産を維持すると供給量が過多になりコメの価格が下がってしまう。それなら作り続けて余るものを海外に出していくしかない、という選択肢しかなかった」(米卸・輸出「百笑市場」長谷川有朋社長、以下同)

 アメリカの大学で金融工学・国際経済を学び、日本でプロバスケットボールチームの立ち上げやプロ野球チームの通訳など、農業とは無縁の経歴を持つ長谷川社長は、日本のコメの美味しさを発信し、契約農家が生産するコメの一部を輸出している。

 そうした取り組みの中で、日本食を扱うスーパーや外食産業だけでなく、一般家庭でも日本のコメ文化の広がりを感じているという。

「需要はこの10年ですごく増えてきて、10年前は全然輸出されていなかったところ、直近で約4.5万トンが輸出されるようになり、年々その需要は増えてきている。そもそも洗米の工程を知らない方もいらっしゃるが、今はYouTubeやSNSの発達もあり、すぐに調べられるようになった。あとはAmazonで日本の炊飯器が買えることなどもあり、末端の消費者の方でもおいしく炊けて、自宅で楽しんでいただけるような環境が整いつつある」

 世界的に需要が高まり、まだまだ成長の余地があるというコメの輸出。しかし、国内でコメ不足が深刻化している今、逆に海外からの輸入米に頼ってしまうという現象が起きている。

 この背景にあると指摘されているのが、作りすぎによるコメ価格の低下を防ぐための、「生産調整」だ。

「多く生産してしまうと、供給過多になりコメの価格が下がることを招いてしまうため、多くなるところを、例えば鶏とか豚とか牛が食べる『飼料用米』や、煎餅などコメを加工して作る米菓などの『加工用米』、日本酒、あとは『輸出用米』(=制度米)に振り分けることで主食用米の生産を調整している。今では『減反』とは言わず、『生産調整』と言う」

 それぞれの用途で生産されたコメは、補助金と紐づいているため輸出用を別の用途へ転用できない。また、国内の主食用生産量が661万トンであるのに対し、輸出用は5万トン未満と、1%にも満たないため、市場価格に影響を与えるほど多くないのが現状だ。

 長谷川社長は、生育途中に用途を決めてしまう現状の制度を見直す必要があると訴える。

「主食用米と制度用米のくくりを最初から作ってしまうのではなく、まずは作って、秋口に出てきたコメの量を見て、余るものがあれば、そこを調整弁・バッファーとして持ち、その中から輸出向け、飼料向け、加工用向けを調整していけばいいと思う」

 現状の制度にも、早い段階で仕入れコストや原価の計算ができるメリットはあるものの、まずは国内のコメ不足を防ぐバランス調整が必要だと長谷川社長は語る。多く作りすぎても、海外での需要と販路があれば、価格低下を防ぎ、持続的な農業が実現できるという考え方だ。

「食料安全保障の観点からいっても、コメは余っても作り続ける必要がある。有事が起こった時に海外から食料品が届かないことはあり得ると思う。『コメなんか作らなくて小麦食ったらいいじゃん』という人がいっぱいいると思うが、北朝鮮のミサイルがもし落ちてしまったら、我々の食生活を支えられるのはコメしかない。したがって、消費者の皆さんにはある程度、生産農家が持続生産可能な価格で購入していただきたいと思っており、輸出米はその経営のリスクヘッジ・バッファーになることを、国が補助金を出して、生産を維持させるための施策だというところをご理解いただければ」

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