「公平性」も課題に

東京大学マーケットデザインセンター・野田俊也氏
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 また、「公平性」も課題となっている。

「例えば、気軽に並べる人は手に入りやすいのに対し、共働きで子どももたくさんいて毎日家事で忙しく並ぶのがしんどい人たちは、わざわざ備蓄米を買うために並ぶための労力を割けないといった話にもなってくる。そういう意味で不公平性が発生してしまうという点も問題」

 こうした状況を生まないためには、どうしたら良いのだろうか。

「無駄な競争を減らすための本質的な方法は、『無駄な努力をすることによって手に入る確率を上げられないような方法をとる』。先着順だと、『早く着くために頑張ったら手に入れやすくなるからダメ』というわけだ。こういう状況を発生させない方法の代表的な例は抽選などがある。『くじを引いて当たった人が安く備蓄米を手に入れられる』かつ『くじは1人1枚しか引くことができない』ということを保証しておけば、備蓄米を欲しい人にできることは、抽選に申し込む以外のことは何もない」

 抽選制が望ましいとされる一方、企業側が抽選販売のシステムを整えるうえで、手間やコストはかからないのだろうか。企業側の本音をLINEヤフーの杉本氏が明かした。

「実際に抽選をして抽選後に当落のメールを送る、この一連をつなげた抽選の仕組みはなかったので大変だった」

 それでも抽選システムについては、元々構想を練っていて、抽選販売をすることが決まってから1週間ほどで、必要なフローを構築することができたと話す。

「我々はインターネットで物を売るサービスなので基盤はある。抽選にするにあたり、コストがかかるからという理由で、意思決定を左右したことはない。それよりも今回の備蓄米のテーマ『全国の方々に“安心価格”で届ける』と比べると、そのコストは全然問題ない」

 今回の随意契約の備蓄米について、消費者が購入の段階で労力がかかるという課題はあったものの、野田氏は、全体としてみれば一定の評価ができるという。

「『備蓄米を安い値段でおろす』しかも『素早くやる』ことで、『今後品薄は解消されていく』『値段も上がっていかない』『そのうち横ばいになって下がっていくかもしれない』と多くの人が考えれば、状況は一気に解決する可能性がある」

「今回に関しては急な話でもあり、なおかつ早くやるということだったので、(先着順による無駄な労力の発生は)ある程度仕方のないことだと思っている。後々の反省をするということで言うと、労力によるスクリーニングを発生させない経路で物資を配るシステムを作ることは、災害対策という意味で大事。イメージとしては政府から市民に対して直接物資を配るような配給のシステムを検討したほうがいいと考えている」

抽選制にコストをかける合理性は?
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