「主体性」が評定に繋がることの問題点とは
文部科学省の教育課程企画特別部会の委員でもある京都大学の石井英真准教授は、主体性の評価が評定に繋がることの問題点をこう指摘する。
「態度を偽装したような形になる。それがきっかけになることもあるかもしれないが、結局いろいろな教科でABC評価をつけることになってしまうと、学校生活が息苦しくなる」(京都大学の石井英真准教授、以下同)
大きな転換点となったのが、1989年に改訂された学習指導要領だ。それまでの詰め込み教育から、自ら学ぶ意欲の育成を重視する方針へと転換が図られた。
「本来ならば“思考・判断・表現”で問いと答えの間が長いということ、これが本丸だ。子どもたちが学ぶというプロセスを考えれば、まず『やってみよう』と食いつく。それで没入してくると当然、手が動いたり試行錯誤や工夫をする。そして『もっとくれ』『もっとやりたい』となってくる」
しかし現実は、主体性を重視するあまり、子どもが深く考えるような試行錯誤や工夫に注力できていない状況だという。
「そもそも『主体性と知識』というふうに二項対立でとらえて、真ん中の『思考』がない。思考をくすぐる問いや問いと答えの間に没入させる認知学習が重要だが、そこがおろそかになる。主体性さえあればどんな内容でも学べるというが、それはよっぽど学ぶ力がある人の話。内容理解をすっ飛ばして、『それはいいから主体性を…』と極論に振れることによって、逆に先生が教材研究や内容理解を深めることをしなくなった」
主体性を伸ばすこと自体は重要だと話す石井准教授。子どもの責任ではなく大人側の責任であることを前提に、成長の傾向を把握していく必要があると話す。
「子どもたちが成長したということに出会ったら楽しい。先生のやりがいの核心はそこだ。『育った』という実感を大事にする。ABC(評価)をつけるわけではないのでその子そのものに向き合える。これが評価の核心だと思う。本当の意味での評価のあり方にちゃんと向き合うために、本当の意味での主体性を育てることに向き合うために今回の見直しの方針がある」
見直し案でも…「評定」に影響する可能性
原則として主体的に取り組む態度は評定せず、となった今回の文科省の見直し案。ただし、こうした力が特に表出した場合は、思考・判断・表現の欄に〇をつける、とも記されている。
では、〇がつけば評定に加点されるのか。文科省によると、その扱いはまだ決まっていないということだが、加点要素となれば、これまでと同じく「態度の偽装」が起きる可能性も考えられる。
この点も含め、見直し案は秋から文科省の委員会で再び議論され、早ければ2030年度に実施の見込みだという。(『ABEMAヒルズ』より)
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