もしも、「犯罪者」によって家族の命が奪われたら……。濱口雅子さんは、飲酒運転によるひき逃げ事件で、娘・望さん(当時23歳)の命を奪われた。「心から(加害者を)ジタバタさせたい、世の中から抹消してやりたい、思い知らせてやりたいといった思いがわいてくる」と、常にやり場のない怒りでいっぱいだという。
【映像】ひき逃げで娘を失った濱口雅子さんに対する加害者の返答
事件が起きたのは10年前。海水浴場を訪れた望さんは、飲酒した20歳の男性が運転する車にはねられ即死。しかも男性は現場から逃走し、飲酒の隠蔽(いんぺい)工作を図るなど身勝手な行為を重ね、裁判でも謝罪の言葉すらなかったという。
しかし、いくら悪質な事件でも、相手の身柄は刑務所に委ねられ、被害者遺族は怒りや悲しみをぶつけることもできない。望さんの父・榮俊さんも「普通でいようとは思うが、感情に押しつぶされそうになる時もあった」と話す。
そんな現状に転機が訪れた。2023年に開始された「心情等伝達制度」。被害者遺族の心情や質問を刑務官が聞き取って文章化し、それを加害者に読み聞かせ、加害者からの返答を書面で受け取ることもできる制度だ。
制度の存在を知った濱口さんは「『あなたを許すことはない』と言わなければ、また同じことをするだろう。刑期が終わって罪が許されるとは思われたくないし、それは納得できないので、使おうと決めた」という。
『この10年間、1秒たりとも許したことはない。この悲しみをわかっているのか?』
『娘の人生も夢も暴力的に奪った事をどう思っている?心の底から反省しているのか?するつもりあるのか?』
長年、言いたくても言えなかった率直な思い。その後、加害者からは「娘さんの命を奪ってしまい、本当に申し訳ない」「自分が生きているよりも、望さんが生きていた方が世のためになったと思う」「出所したら、事件現場に行って、お花を手向けさせていただきます」との返答があった。
その言葉に濱口さんは「返答が薄っぺらで腹が立った」としつつ、「被害者が加害者に関わることが一切なかったが、ストレートな言葉が行くようになったのは、すごく意義があった」。答えには納得できないものの、遺族が加害者とやりとりできる制度は必要だとの考えだ。
■「俺には関係ない」「手紙を書かないで」 加害者から心無い返事も
