ミュージシャンとして活動する竹村公成さん(62)。24年間にわたり、統合失調症と向き合っている。自分の考えや気持ち、行動がうまくまとまらず、幻覚や妄想といった症状が現れる精神疾患で、患者数は日本国内で約90万人と言われている。
【映像】「大挙として押し寄せる男性たち」幻覚の元になったアルバムのジャケット
竹村さんに兆候が現れたのは、ベンチャー企業の役員として働いていた38歳の時だった。「会議やプレゼンの席でしゃべることが大げさになり、『おかしな事を言い出している』と言われるようになった。いろんな人と衝突して、もめ始めて、みんな僕が『病気になった』と言い出した」。
寝る間もないほどの激務が続く中、「仕事が遅い」と仲間をののしったり、夜中に部下を電話で怒鳴りつけたり、常にイライラして会話や意思疎通はままならなかった。周囲も「おかしい」と思い始めた矢先、幻覚や妄想の症状が現れた。
「YMOの『増殖』というアルバムの顔に街のみんながなって、新宿駅でぶっ倒れかけた。ザック、ザックと皆が来るから、怖くなって(レコードジャケットに)バッテンを貼り付けた」。大挙として押し寄せる男性たちに加え、目に映る景色がすべて青色に。その後、訪れた病院で「統合失調症」の診断を受けた。
会社に居場所がなくなり、大阪の実家へと引きこもると、妄想は激しさを増した。「ある日突然、『ヒトラーの生まれ変わりだ』と確信を持ち、その妄想が完璧に出来上がってしまった。家の外から誰かが鉄の棒をカランコロンとやっている音が聞こえてくる。今にも僕を襲撃しにくる」との恐怖から、交番へ駆け込む。「自首するしかないと思い、『罪を犯しました』と言った」というが、返答は「そんなことでは裁けない」。結局、警察の勧めで入院することになり、その後20年にわたり幻覚や妄想に苦しみ続けた。
■「荒唐無稽なことを言っても、言葉のキャッチボールが始まる安心感」
