■「荒唐無稽なことを言っても、言葉のキャッチボールが始まる安心感」
回復の見込みさえない状況から竹村さんを救ったのが「当事者研究」だった。「仲間がいることが大きい。病気は孤立から起こり、誰にも理解してもらえない。話したところで相手にしてもらえないから、症状がひどくなるような気がする」と振り返る。
当事者研究は2001年、北海道の「浦河べてるの家」からスタートした。精神障害を持つ人たちが自分自身の病気について仲間と研究することが目的で、依存症のように「弱さの情報公開」をして共有することで、障害を抱え込み孤独になるのを防ぐ。幻覚や妄想体験をユーモラスに捉え、1年に1回、「幻覚・妄想大会」も開催される。
当事者研究は、(1)問題と人との切り離しの作業、(2)自己病名(苦労ネーム)をつける、(3)苦労のパターンやプロセス・構造の解明、(4)自分の助け方や守り方の方法を考え試してみる、(5)結果の検証といった要素からなる。
竹村さんは当初、当事者研究に熱心ではなかったという。「ある日の出勤途中にブルーな世界に入った。主治医でもある社長に話すと、『診察よりも当事者研究をやったほうがいい』と勧められた。やってみると、荒唐無稽なことを言っても、会話のキャッチボールが始まって安心した。それを継続することで、入院しなくてよくなった経験もある。安心することで、落ち着いてきた」。
統合失調症に対する、世間の偏見も存在する。「大きな事件は大体統失が起こしてるから関わりたくない」「統失だと事件起こしても無罪だから無敵」「重度の統失は普通の仕事も無理だろう」「統合失調症の人とかの文章ってマジでめちゃくちゃ読みづらい」などがあるが、いずれも医学的根拠はない(北海道医療大学特任教授で、「浦河べてるの家」理事長でもある向谷地生良氏の監修)。
竹村さんは「一番おそろしいのは『身内と思っていた人間が偏見の塊だった』とわかった時。偏見はやはり強い。僕が表で活動することで、当たり前と思われる時代が来たらいいな」と願う。「否定せず、話を聞く。『おかしな人だ』ではなく、『何かメッセージを発している』と受け止めることが重要だ」。
■呂布カルマ「否定しないのはなかなか難しい」 当事者との接し方は
