■呂布カルマ「否定しないのはなかなか難しい」 当事者との接し方は

 「当事者研究」を生み出した向谷地氏は、「識者がいないオーケストラのような状況。視覚や聴覚など五感にまとまりがなくなり、外れた行動を取ってしまう現象が起きる」と、統合失調症の症状について説明する。原因は不明で、ストレスなどの環境的要因や遺伝的な要因、脳の様々な機能が複雑に絡み合って発症。症状としては、意欲や注意力の低下や、感情の鈍化もみられる。

当事者研究の要素(生みの親・向谷地生良氏、右列下段)
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 患者数は国内に90万人いるとされることについて、「見える(幻覚)・聞こえる(幻聴)経験を持つ人は100人に6人ぐらいいると言われ、子どもの約15〜20%が日常的に経験しているというデータもある。一見健康に暮らしている私たちにも重なる部分は多い」。

 向谷地氏は、統合失調症患者との接し方として、「幻覚・妄想を評価したり、否定することはしない」「当事者の生きる世界に身を置き、関心を寄せる」「結果に一喜一憂せず、一緒に考えるプロセスを重視」「仲間づくり、つながりを増やすお手伝い」を意識している。

「従来はタブー視されていた『こういうものが見える』『この人がこう言っている気がする』を伝え合い、信頼関係が生まれると、『この人は絶対にそんなことを言う人ではないから、幻の声に違いない』と突き合わせられるようになる。私の顔を見て『怒っていますか?』と聞いてきた人に『怒ってない』と返すと、その人は安心するわけだ。そうしたコミュニケーションが定着すれば、症状が完全になくならなくても、互いに配慮して助け合える場ができる」

 一方、ラッパーの呂布カルマは、「身近な人がそういう状態になったときに、家族や友人としてできることは何か。実際に会ったことがあるが、攻撃的な場合もあり、『否定しない』ことは難しい」と投げかける。

 これに向谷地氏は「攻撃的になった人には、『そんなことないよ』と言えば言うほど反発される。その人の世界を受け止めて、相手の困難さに立ち続けるのが基本だ」としつつ、「そう簡単ではないため、慣れた専門家に協力してもらう」ことを勧めた。

 統合失調症に対する偏見については、「歴史的にずっと繰り返してきた。50年近く前、精神科病院はガチガチの鉄格子で覆われていた。社会が一種の“犯罪者予備軍”としてみなしてきたことが、恐怖や不安を生んでいる」と指摘。また、「認知症を含めると、いまや5人に1人がメンタル面での医療やケアが必要な社会だ」とした上で、「病気が軽症化してきた分、裾野が広がり、みんなのテーマになっている。もっと当事者に学ぶ時代が来たと言っていい」と語った。(『ABEMA Prime』より)

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