■アレン様「“悟って”は無理。本人たちから意思を伝えるのが大事」

 一般社団法人にじいろドクターズ代表理事の坂井雄貴氏は、保険診療では制度上男女の登録が必要で、診療上でも性別情報は大事だと説明する。それは、どんな臓器(生殖器や子宮)を持つか、生理、ホルモンの状態などは重要で、同じ症状でも男女によって想定すべき病気・状態が変わるため。一方で、問診票等への記入が必要かは別問題だと指摘する。

「保険証の性別がそのままシステムに反映されるので、それをわかった上で、“多分こういう状態だろう”と推測して診察が始まる。ただ、トランスジェンダーの方は特に、体の状態や治療の有無・状態が個人で大きく違う。そこで勝手な思い込みが生まれると、診断や治療を誤ることに繋がってしまうので、そこはまず医療者が知っておかなければならない。また、『自分の体の状態はこうです』と安心して話せる環境がないと、信頼してもらえない。どうすれば双方がうまく情報を伝えられるかはすごく大事だ」

“病院控え”の経験がある田中さん(左)、アレン様(右)
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 “大物マダムタレント”のアレン様は、「キツイ言い方かもしれないけど、本人たちからある程度意思を伝えるのが大事だと思う」との考えを示す。「大病を患ったり、一刻を争う状態の時に、『病院に行きたくない』とか性別とか言ってられない。私も本名を呼ばれたくないから、かかりつけの病院ではドクターや受付の人に『私の時は名前呼ばないで』って伝えてて、私の時だけ呼びに来てくれる。『こういう性別の者で、自分をこう自認してます。少し配慮いただけるとうれしいです』ってひとこと言えば、まるっきり変わるかはわからないけど、先生や周りの人の頭には入る。それだけでも違うと思う。大多数の人を処置している医療従事者に“悟ってください。わかるでしょう”は正直無理だと思うから、やっぱり自分からある程度アクションを起こさないと」と話した。

 田中さんは「我々が望んでいるのは特別扱いではなくて、つつがなく診察が終わること。ただそれだけ」としつつ、「私は男性自認のセクシュアリティだが、男女どっちともつかない自認であるとか、あえて決めていない、もしくは決められていない状況の時に、“こう扱ってください”と伝えるのはすごく難しいと思う。さらに言えば、『体は女性です』と割り切って伝えたつもりであっても、向こうからは『社会的に女性です。そう扱って大丈夫です』と誤解されることもある。生物学的な性別と、社会生活の性別、表現したい性別は必ずしも一致しないが、その前提自体が相手に共有されていない」と問題提起した。

■小原ブラス氏「今は自分にちょうど良い病院を見つけた」
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