パリの下水道博物館を取材
もう一カ所、今村記者が訪ねたのはパリにある下水道博物館だ。こちらは「博物館」と命名されているが、パリで実際に現在使われている下水処理施設を公開したものだ。
今村記者はその状況について「かなりくさい。美しい建物が並ぶセーヌ川沿いにある現役施設の一部で、実際に下水は処理された後にセーヌ川に放出されている。太いパイプからは音も流れており、まさにこの瞬間、誰かが流したトイレの水が流れていることが感じられた」と振り返った。
このように、嗅覚に訴える博物館も増えており、においを残すことが大切だとして研究が進んでいるのだという。
今村記者も「目で見たり耳で聞いたりするものは映像や写真で残せるが、においはそうではない」と指摘。歴史的価値があるにおいを残そうとするベンビブレ教授の取り組みを紹介した。 「ベンビブレ教授は『消えてしまうにおいを文化の記録として残す』嗅覚遺産の研究をしている。彼女はにおいの物質そのものを残すというより、『なぜこういうにおいがしたのか。人間の営みや人々が関わってきた痕跡、歴史がある。科学的な成分だけでなく、人々がにおいに込めた意味まで残すことが嗅覚遺産だ』と言っていたのが印象的だった」と話した。
そして、究極の歴史の遺産といえるミイラにも香りがあることがわかったという。
2025年2月、エジプトの考古学博物館や他のヨーロッパの大学が連携してエジプトの博物館に収蔵されている9体のミイラのにおいを復元するという初の試みが行われた。採取したミイラのにおいは、紅茶やレモンの香りがしたという。
嗅覚は意識して使うことで鋭くなる
さらに今村記者は“嗅覚研究の総本山”と言われているドイツのドレスデン工科大学に、トマス・フンメル医師を訪ねた。
フンメル教授は2009年に嗅覚障害者向けのスメルトレーニングを開発。このトレーニングにより嗅覚が改善するのだという。
フンメル医師は「ユーカリ、レモン、バラ、クローブ、4つのにおいが入ったビンがある。これらの香りを朝と夕方の1日2回、それぞれ30秒嗅いで。3〜6カ月ほど、もしくはそれより長い期間続けることが大事です」と説明。
嗅覚は意識して使うことで鋭くなるという。フンメル医師は香水売り場で働く人を例にあげ
「あたり一面に強いにおいが漂っている。『嗅覚が鈍ってしまっているのでは』と考えてしまうが、実際には他の人よりも嗅覚が優れている」と説明。
一方で、工場のクリーンルームなどの環境について「においもほこりも一切なく完全に清潔な場所では他の人よりも嗅覚が弱くなる」とも話した。においにたくさん触れたり、においに集中したりすることでさらに鋭くなるのだと説明した。
「『臭い』と思った時に自分の世界が戻ってきた」

