■セクハラ疑惑の前市長、認定後も否定

古謝景春前市長
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 セクハラ疑惑をめぐっては、2024年4〜5月に市議会の職員対象にアンケートを行い、9件の被害回答があった。そして2025年5月、古謝氏による複数職員へのセクハラを認定する。「出張先でホテルの部屋に呼ばれてキスされた」「カラオケでチークダンスを強要された」「飲み会で太ももを触る、脇の下を触る」などの行為があったとして、「セクハラ被害を受けても訴えることができない状況を市長自らが作り出している行為で決して許されない」と断じた。

 古謝氏は、市の女性職員に対して複数回のセクハラ疑惑があり、11月17日に議会の不信任決議で失職した。しかし、本人は「いつも笑顔で接してくれていた」「お土産もいつも喜んでくれていた」「派遣会社に相談して配置転換できたはず」「彼女から私に『おめでとうございます』とハグして終わり」と主張している。

 セクハラを含む性暴力被害者の支援などを行っている、NPO法人「ステップ」の栗原加代美理事長は「表面的なところだけを見て、『俺のことを嫌がっていない』と受け止めてしまうところに、認知の歪みがあるのでは」と推測する。「妻でもない他人に、キスや触れることは性的行為だ。それを『上司は部下に何をやってもいい』『女性は性の対象にしていい』とするのには認知の歪みがある」。

 「認知の歪み」とは、問題行動を継続するために、現実を歪めて、本人にとって都合のいい認知(解釈)をすることを指す。

 研究者の山内萌氏は「“認知の歪み”は個人の認識に踏み込むため、批判の言葉として慎重になる必要がある」としつつ、「“派遣会社”のフレーズが引っかかる。非正規雇用はいつ切られてもおかしくない不安定な立場で、ものを言いづらい。所属組織の雇用者について客観的に見られていない点で、市長には問題があるのでは」と語る。

 笑下村塾代表のたかまつなな氏は「えん罪の可能性もあるが、第三者委員会が9件の被害を認定したならば、ほぼクロではないか。それに対して反省の姿勢を見せるならわかるが、自分が被害者かのように人権救済を求めることに驚いている」とコメントする。「私も小さな会社の経営者だが、数人の中でも忖度(そんたく)は生まれる。市長と派遣職員の権力勾配の中で、『嫌だ』とは言えない。権力者が自制的になる必要があるが、その感覚がないのかと怖くなった」。

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