■ソウル市内でマンション高騰、近郊でも敷金100万円超は当たり前

田中さん、韓国での引っ越し体験
拡大する

 ニッセイ基礎研究所上席研究員で、亜細亜大学特任准教授の金明中氏は、高騰の背景には「需要に比べて供給が足りない状況が続いている」ことがあると説明する。「ソウルと首都圏は、韓国全体の11.7%の面積にすぎないが、人口は50%を超えている。就業者も若者も半数以上がソウル在住で、『いつかはソウルで成功して、良いマンションを買いたい』という夢を持っているため、価格が上がっているのではないか」。

 また、韓国には「不動産不敗神話」というものがあるといい、「『不動産を買っておけば、いつかは上がるから失敗しない』という考え方が根強い。経済的に余裕があれば、他の金融商品よりも、不動産に投資しようとする動きが強いのも要因だ」と解説した。

 ソウルの病院で通訳として働き、市内で引っ越しをしたばかりだという田中さん(30代)は「賃貸でも費用が大変だ」と語る。「日本の敷金にあたる“保証金”が高い。お金のない学生相手でも30〜50万円が基本で、一般的には100万〜500万円を一度に出してから、プラスで家賃を毎日払う。退去時には全額返ってくるが、入居時の負担は大きい」。

 ソウルと近郊での差については、「東京に対する神奈川にあたる地域に京畿道がある。私が住んでいるカンナムから、京畿道の一番近いところまでは、地下鉄で15分程度だが、そうした地域はソウル同様に家賃が高い。30〜50分離れても、1〜2万円ぐらいの差だ」と話す。

 引越しに際しては「職場のあるカンナム付近で、約15〜30分のところを探していたが、予算的にも厳しく、物件探しは難しかった」という。「同世代の同僚を見ても、通勤1時間超の人は結構いる。そういう人なら家賃もだいぶ安いだろう」。

 保証金の相場は「だいたい同じ。探せば安いところもあるが、築年数がたっていたりする。新築で20〜30代が好むような物件では、100万円と聞いても高いとは思わない。100万円ぐらいがベースだろう」とした。

 職場で引越しを報告した時には、上司から「家賃が高い地域だから、親御さんが手伝ってくれたんだよね」と言われて驚いたという。「韓国には軍隊もあり、日本より社会人スタートの年齢が遅いため、30代前半でも親が支援することが結構あるらしい」。

 韓国でのマンション高騰は新築に限らない。先に紹介した「平均1億4000万円」は、マンション全体の価格だ。「同世代の普通の会社員では、ソウルで家を買うのは無理だ。人気のある地域では3億円を超える」ため、「新婚夫婦はソウル以外で、買える範囲の家を買い、年齢が高くなるにつれて、家を買い換えていく」といった手法をとるという。

 金氏によると、「韓国は教育を中心にした社会で、良い大学や塾が集まる場所はソウルだという意識が強い。『子どもがソウルの塾まで通うのはかわいそうだ』と、塾が多いソウル市内に住もうとする動きがあるのは、日本との違いだろう」という。

 教育については「韓国では1960〜70年代に、中学・高校入学が試験からくじ引き制になったため、地方の名門校がなくなり、ソウルに集中するようになった。国立大学はつぶれ、企業も地域から離れた。これは大きな政策の間違いだった」と解説する。

 加えて、「雇用が安定していない」ことも問題視する。「日本は大卒就職率が98%だが、韓国は7割しか就職できない。雇用が安定していないため、住宅を購入できず、結婚もできない。結婚ができないことが、出生率低下にもつながっている」。

■問題視されるべきは国籍ではなく投機?
この記事の写真をみる(4枚)