■突然、親が病院に…その時の決断は
自宅で父親が突然倒れたというキクチさんは、病院の現場で大きな決断を迫られた。「用紙の最後に『延命措置・治療をするか』どうかのイエス・ノーの選択をするような記入欄があった。すごくびっくりしたし、戸惑いがあった」と振り返る。キクチさんは「延命措置を行わない」決断を下したが「果たして娘の私が最終決定を下していいのか?戸惑いはあった」という思いを抱えていた。父親は奇跡的な回復で一命を取り留めた。
番組のアンケート調査によると、家族が回復の見込みがない場合の延命治療を「あらゆる医療をつかって延命してほしい」と望む人は6%にとどまり、「延命のみを目的とした治療は行わず自然に任せてほしい」が88%に上る。しかし、いざその決断を前にすると葛藤が生まれているケースも多い。
12年前、実家が火事になった轟浩美さんは、突然病院からかかってきた電話で、当時81歳だった母親の延命措置をするかしないのか、わずか10分で決めるように迫られたという。
「職場に実家が火事だという連絡が入って、母が運ばれたと。病院に向かうタクシーの中で、スマホに電話がかかってきた。母がどういう状況かもわからない、10分以内に生命維持装置をつけるかどうか決めてほしいと言われた。『10分以内に病院に着く』と言ったら『では、その時に言ってください』とガチャンと切られた。逼迫した状況なのは分かっていたし、私に『火事だったら…』というイメージがある中、母の状況がわからないままで、とにかく『私は決めなくてはいけない』ということに包まれてしまった。その時の孤独は今でも忘れない」。
轟さんが到着後、1人の看護師が飛び出してきて「どっちですか」と聞いてきた。病室で母親の状況を確認することもできないまま「つけません」と答えると、看護師はまた急いで病室に戻っていった。
「母が機械に繋がれて命を長らえることは望まないだろうということしか頭になかった。とにかく一刻を争うことだから、私が決めなくてはいけないんだと。今でもずっと思っているのは、あの時私はなぜ取り乱さなかったんだろうということ。もし『わかりません』と取り乱したら、もう少し母の状況を伝えてくれるとか、会話につながったかもしれない。決断が間違っていたかどうかよりも、なんで一人で決めてしまったんだろうと。言われるがままに10分以内に結論を出してしまったという思いが日に日に強くなった」。
轟さんは過去、大動脈解離で父を亡くしているが、その時に生命維持をしていた人工呼吸器についての思い出もあった。
「父が大動脈解離で突然倒れた。手術しても目覚めなくて、人工呼吸器みたいなもので心臓も動かしていた。その時に『会わせたい人、全員に会ったら教えてください』と言われ、(全員が会い終わったと)言ったら機械を止めた。ああやって機械で心臓を動かし、呼吸をすることが生命維持装置なんだというイメージがすごくあった。火事の時も、そのイメージがあって、生き長らえていくことで母の回復につながるとは思えなかったので決めてしまった」。
この轟さんの対応を、医学博士で日本尊厳死協会理事長の北村義浩氏は「本当に尊敬し、感動する」と高く評価する。
「(人工呼吸器を)つけたら中止ができないという制約を、たぶん強く(病院から)言われたのではないか。10分という中で、本当に大変な状況の中、最善を尽くされた。轟さんが素晴らしかったのは、お母様の意識がなくお話ができない状態の中、『お母さんだったらこう決断したに違いない』と考えたこと。娘の轟さんがこうしたいではなく、お母さんだったらこうしたいと思いを馳せたことに、本当に頭が下がる。情報も少ない状態だった中、本当に尊敬、感動した」。
■奇跡を信じるも叶わず「知識があれば延命しなかったかも」
一方で、延命治療をする決断を下したことで後悔を抱えるケースもある。アキコさんは、父が持病のパーキンソン病が悪化し入院。その後、硬膜下血腫も発症し、食事を自力で取ることができず、胃ろうの選択に迫られた。
「パーキンソン病が悪化して、入院中に硬膜下血腫で意識不明の状態になった。もともと私も延命に対して、ものすごくネガティブなイメージがあったが、その時は奇跡が起こるとすごく信じていて、胃ろうによって栄養をつければ、回復するのではないかと決断した」。
ただ実際には、意識がない父が胃ろうによって苦しむケースを多く見ることになる。
「胃ろうを始めてから、痰がすごくよく出るようになって、1日数十回くらい管を入れて痰を吸引していた。その時、意識のない父がもうすごく体使って嫌がる素振りを見た。私は年に1回の胃カメラを飲むだけでも嫌なのに、父はそんなものを1日何回もされていたようなもの。あれが本当によかったのかなと今でも思う」。
胃ろうを始めて4カ月、アキコさんの父は回復に向かわず亡くなった。担当の医師からは、回復はかなり難しいものだと告げられてもいた。
「先生からは脳幹にダメージがあったので『回復の見込みはない』と医学的な根拠と、今までのご経験の中でアドバイスされていた。それでも情報収集する中で、脳のダメージがあっても回復するケースがあったので、可能性を信じたかった。先生は胃ろうは推奨されず、むしろ止められていたが、父に声をかけた時に瞬きしてくれる反応が『生きたい』というサインだと捉えていた。今思えば吸引の苦しさだったり、意識がなくても体にどれだけ負担があるかという知識があれば、もしかしたら延命するという判断はしなかったかもしれない」。
■命の選択、家族の負担を軽くするには

