■2歳の時に重度知的障がいを伴う「自閉症」と診断
岡山県津山市に住む蓬郷由希絵さん(41)と次女の結衣菜さん(中2)。結衣菜さんは、重度知的障がいを伴う自閉症だ。「一番はこだわりの強さだったりとか、音に敏感だったりとか、人とのコミュニケーションがとりにくい」(由希絵さん、以下同)
苦手な音を和らげるための「イヤーマフ」は、生活に欠かせない。
「もう何カ月も先のことが気になって…10歩先行く人間かなって感じ」。予定を確認し、見通しが立つことで安心できる結衣菜さん。
「卒業式お休みだなー」結衣菜さん
この日は、2年も先の卒業式が気になっていた。由希絵さんは「前まではみんなと一緒の行動をとりたいと思っていたけど、今はちょっと後ろ向きな感じ」と説明する。
以下は取材中の由希絵さんと結衣菜さんのやり取りだ。
「かーかん…3年生の卒業は…」「かーかん…」結衣菜さん
「結衣菜、結衣菜」由希絵さん
「何?」結衣菜さん
「シュークリーム食べた?」由希絵さん
「食べた」結衣菜さん
「結衣菜、シュークリームおいしかった?」由希絵さん
「おいしかった…待って」結衣菜さん
「結衣菜、エクレアおいしかった?」由希絵さん
「おいしかった」結衣菜さん
「…待って…かーかん、3年生の卒業式に休みたい」結衣菜さん
「そっか…」由希絵さん
「かーかん…待って」結衣菜さん
「待ってる」由希絵さん
「3年生の卒業式が…お休み…」結衣菜さん
「本当に!一家に一台もいりません!だから結衣菜が寝たら『やれやれ』って思う本当に。だけどこれが毎日じゃけん、もう何ともないんだよな」由希絵さん
2歳で「自閉症」と診断された結衣菜さん。「一生言葉が出ないかもしれない」と言われ、意志疎通もままならない状態だった。
「まず悲しむよな。『自閉症です』って言われた瞬間は、どん底で『なんで?』って思ったし、この子と本当に、この世から去りましょうと思ったし。言葉もない本当におさるさんみたいな子に『まず何から教えるん?』って言って、私は結衣菜につきっきりで、ひとつひとつの行動を教え込んでいったって感じ。本当に気が遠くなりそうだった」
由希絵さんは、専門家による「療育(りょういく)」と呼ばれるサポートを受けながら、生活に必要な動きを教え続けた。食事ができるようになるだけでも、2年以上かかったという。
地道な積み重ねが実を結び、結衣菜さんは、身の回りのことはもちろん、家事までこなせるしっかり者に成長した。
地元の中学校の特別支援学級で学んでいる結衣菜さん。由希絵さんは仕事をやめ、毎日授業に付き添っている。「『お休みするよ』とか『行かないよ』という言葉が出だしたな…。成長するんだけど、自閉症の部分もぐんと伸びたから、(中学校で)いろいろな子とすれ違うんだけど、自分の顔を本で隠すとか、今までにない行動だなと思う」。
今は午前中だけ授業を受けて、帰宅後は由希絵さんと料理をするのが日課だ。2人は料理をしながら「ハンバーグの完成だ~♪ 食べよう食べようハンバーグ~♪」と歌う。幼い頃から料理を続けるうちに、少しずつ上達していったそう。
出来上がった料理を食べた由希絵さんが「すごい、上手~、結衣菜!おいしい!」と言うと、結衣菜さんは「ありがとー」と微笑んだ。由希絵さんは「将来やっぱり私たちはいなくなるから、この子のためになるようなことができたらいいなって思っている」と話す。
「結衣菜は大人になって、母さんはおばあちゃんになるでしょ?なったらどうする?」由希絵さん
「ばあちゃんは、かーかんはならないよ」結衣菜さん
「じゃあ母さんはどうなるの?お姉さんになっていく?」由希絵さん
「お姉さんになっていこっか…」結衣菜さん
「ハハハハハ…」由希絵さん
「かーかん!しっかりしろー!」結衣菜さん

